松本部長らが2014年に行った調査では、精神障害を起こす原因薬物として、覚醒剤と危険ドラッグに次ぐ3位が、睡眠薬や抗不安薬といった医師から処方される薬だった。中でも、もっとも乱用が多かったのがデパスなどに含まれるエチゾラムという成分だ。デパス以外にも複数の薬に含まれ重複処方になりやすい。

 エチゾラムは神経活動を抑えるが、飲み続けていると抑えた状態が普通になり、薬を減らすと今度は興奮してしまう。そのため、徐々に飲む量が増えて依存症になってしまうのだという。

 そこで厚生労働省は今年10月からエチゾラムなどを向精神薬に指定し、「投与期間の上限は30日」などとして医師への注意喚起を強めた。薬を飲むだけで不安が取れるからと、デパスを求める患者は少なくない。だが、

「睡眠薬や抗不安薬などは、その場しのぎをして問題を先送りしているに過ぎない」と松本部長は言う。

「そもそも不眠や不安の背景には必ず、仕事や人間関係の悩み、経済的な問題などがあります。薬はそれらの問題を解決してはくれません。薬は少し楽になっている間に、根本の問題を自分で解決するためのものです」

 松本部長らは、依存性が少ない他の薬に徐々に変えていく治療などを行っているという。

 薬はあくまでも補助的なものだと心得ておこう。(編集部・長倉克枝)

AERA 2016年11月7日号