Cさん:もう、本当に私みたいな人間には、早く辞めてほしいんでしょう。もはや、接待できないMRは不要と言わんばかりに、医者から「高給取りのあなたたちがいなくなれば、日本の薬剤費も下がって、医療財政も救われる」と言われたこともある。Aさんのように、引く手あまたのMRもいるんだけど……。

●今の花形はがん担当

Aさん:抗がん剤が担当できるMRは重宝されます。抗がん剤は副作用も多く、難しい症例も多いので、情報提供は非常に重要な仕事。自分も文献を調べ、学会に定期的に参加して、勉強しています。

Bさん:確かに今、MRの花形はがんの治療薬。かつては医者の方がMRよりも完全に地位が上だったけど、医師と専門的な話ができるMRは尊敬される。欧米ではMRを、専門性の高い学術的な専門家と営業に分ける動きがあります。学術的な話を医師とするのは、MSL(メディカルサイエンティフィックリエゾン)と呼ばれる専門職で、医師、薬剤師、獣医など専門性の高い人が多い。日本の製薬業界は海外に追随しているので、いずれその方向に移るのではないですか。
Aさん:MRにとって、コミュニケーション能力も大事。以前、異なる学閥の大学病院の医師に集まってもらう講演会を1年がかりで企画しました。医者の世界は学閥のつながりが強く、とても難しかったのですが、参加した医師から「症例を共有できたこと以上に、出身大学以外の医師と交流ができて、困った時に相談できる環境ができ、感謝している」と言われたときは、とてもうれしかったですね。

Cさん:もう高給取りの正社員MRには、Aさんのような専門性もあり、人間力のある人しか採用されなくなるのでしょう。

Bさん:もっとも、これまでのMRの給与が高すぎたのかもしれない。今でも他業種に比べて恵まれていますよね。

Cさん:しかも、接待やゴルフで満足に休暇をとれない時代ではなく、いまは定時で仕事を終えることも増えました。私が活躍できるのは、もはや病院主催の忘年会や納涼会で、場を盛り上げるくらいです……。

Aさん:接待のあったころは、深夜3時に飲み会が終わり、漫画喫茶で仮眠してそのまま出社、ということもありました。以前のように飲み会で時間をつぶされることもないですし、いつ誰に会うか、自分で自分の予定を立てるので、私はむしろ仕事がやりやすくなりました。

Bさん:優秀なMRほど状況の変化を理解していて、危機感を強く持っています。転職を意識して、MBAを取得するためにビジネススクールに通うMRもいると聞きますよ。(編集部・澤田晃宏、澤志保、長倉克枝)

AERA 2016年11月7日号