かつては病院の待合室に列をなすスーツ姿の男女が目立った。別件で先に診療室に入ると、疑心暗鬼の目でMRたちににらまれたものだ(撮影/写真部・松永卓也)
かつては病院の待合室に列をなすスーツ姿の男女が目立った。別件で先に診療室に入ると、疑心暗鬼の目でMRたちににらまれたものだ(撮影/写真部・松永卓也)
薬の効能が向上すればするほど、MRに求められる資質も専門性へと変化している。体育会系のノリは、影をひそめてきている(撮影/写真部・松永卓也)
薬の効能が向上すればするほど、MRに求められる資質も専門性へと変化している。体育会系のノリは、影をひそめてきている(撮影/写真部・松永卓也)
MRの現在の悩みや不安(AERA11月7日号より)
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職種別平均年収ランキング(AERA11月7日号より)
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 医療用医薬品を医師に「営業」する専門職、MR(医薬情報担当者)。彼らの職場環境も大きく変わっている。

Cさん:「AI(人工知能)に奪われる仕事」みたいなタイトルの記事があると、ついついクリックしちゃうんだよね。私みたいな古いタイプのMRは、もう必要ないんじゃないかって。

Dさん:確かに時代は変わった。いまだに「MRって医者に接待しなきゃいけないの?」なんて聞かれることもあるけど、もうありえない。私は外資にいたから、もともと内資(日系企業)ほど接待はなかったけど、昔を懐かしがる医者もいますね。相手にはしないけど……。

Cさん:2012年4月からMRの世界が変わりました。製薬会社でつくる公正取引協議会が接待の規制を強化し、ゴルフやカラオケはもちろんダメ。医療情報提供のための飲食も一人5千円以下に。実質的な接待の禁止でした。

Dさん:製薬協(日本製薬工業協会)もガイドラインを作り、医師や医療機関に支払った講演料や研究開発費、接待費までを開示するよう製薬会社に求めました。その上に、各社がさらに自主規制をかけ、とにかく厳しくなっています。

●15秒で決めゼリフ

Cさん:規制がかかる前の最後の1カ月はすごかったね。「先生、まだ経費が残っていますから」なんて、週に5日接待して、週末はゴルフに行って、月に100万円は使っていた。

Dさん:この世界に入って驚いたのは、入社1年目から車とクレジットカードが与えられたこと。あとは、束のタクシーチケットも。1カ月分の請求金額が自分の給料より高くて、最初はビビっていました。

Cさん:すべての医者がそうではないけど、いま思えば医者もそうした状況に甘えていた部分はある。「ゴルフクラブが欲しいんだけど」なんてお願いしてくる人もいれば、講演会に来てもらうために渡したタクシーチケットを悪びれもせず私用で使う医者も少なくなかった。

Dさん:2次会、3次会もありで、ピンクなお店では領収書を切れないから、なじみのお店にその分を上乗せした請求書を作ってもらうようにお願いしたり……。とにかく飲ませて「うちの薬を採用してください」と。当時はMR一人あたり、半期で100万円くらいは接待予算を持っていました。課で使い切れない人の分も使えば、半年で300万円を超えることもありました。

Cさん:狙うは大病院。まずは薬局長を口説いて、次に自分の担当する薬の領域の部長を口説き落とし、採用申請を出してもらう。大きな病院で採用されれば、その実績をもとに開業医を攻めていけばいいんです。

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