3剤は完全な薬ではなかったが、もっと良い薬が出るまで、「生き延びよ、時間を稼げ」を合言葉に、満屋さんは研究を続けた。07年には、HIVに特有な酵素の働きを抑える、新たなメカニズムの薬ダルナビルも開発した。その後も世界中でエイズ治療薬の開発が進み、現在は、HIVに感染しても適切な服薬をすれば、非感染者と同様に生きられるまでになった。

「病める人に尽くしたいという幸せな病気にかかっている」

 と満屋さんは語る。

●母の認知症がきっかけ

 世界で初めての認知症治療薬を創製したのは、高卒でエーザイに入社した研究者、杉本八郎さんだ。夜学などで合成化学の知識を蓄えると、30歳で自らの母親が、息子の顔も分からない認知症になったのをきっかけに、治療薬開発を心に期した。「土曜も出勤せよ」「週に5体以上合成せよ」と、若手にうとまれながらも檄を飛ばし、自社で合成した1千以上の化合物の中から、ドネペジル(アリセプト)の創製に漕ぎ着けた。

 アリセプトは97年、まず米国で発売された。アルツハイマー病の症状の進行を緩やかにするだけで根治薬ではないが、患者がその人らしく過ごせる時間を延ばし、介護にかかわる家族や社会の負担軽減に貢献している。

 生活習慣病の薬は、もはや飽和しているように見えるが、帝人ファーマが、アメリカで09年、日本で11年に発売したフェブリク(フェブキソスタット)は、実に40年ぶりの新しい痛風・高尿酸血症薬となった。

 60年代に創られた尿酸生成抑制薬ザイロリック(アロプリノール)は効き目の高さから、長らく市場の4分の3あまりを占有してきた。それに加え、メルカプトプリン、アザチオプリン、アシクロビルなど5種類の薬を開発した英国のエリオンとヒッチングスは、88年にノーベル医学生理学賞を受賞した。

●生きた証しに薬を創る

 繊維不況で多角化を目指す中、帝人の近藤史郎さんが創製したフェブリクは、1日1回の服用で尿酸生成の触媒酵素の働きを妨げ、副作用は少なく、腎機能が低下している患者にも使えるといったメリットを持つ。

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