だれかにビールを注ごうとして、ダメ出しされた経験はだれしもあるだろう。たかが注ぎ方で……と思ったアナタ、それは大いなる勘違いです!
カジュアルなイメージが強いビールだが、実はとんでもなく繊細な飲み物だ。まったく同じ銘柄でも、グラスへの注ぎ方ひとつで味が変化してしまう。そのため、造り手が真摯に造ったビールを最高においしい状態で味わうには、「注ぎ手」の存在は欠かせない。そんなプロの技を極めた注ぎ手のひとりが佐藤裕介さんだ。
「注ぎ方によって炭酸の量や泡の口当たりを調整すれば、同じ銘柄でも味わいの変化が楽しめます。ビールを注いだ後にわざわざクリーミーな泡を足すのは、日本独自の文化です」
そう語る佐藤さんは、東京・新橋のBrasserie Beer Blvd.(ブラッセリー ビア ブルヴァード)で「アサヒスーパードライ」を3種類に注ぎ分けて提供し、ビール好きをうならせている。
記者も、佐藤さんの注ぎ分けを体験してみた。
●注ぎ方で味変わる定番
炭酸が強い順にということで、まずは「シャープ注ぎ」。液体を注いだ後に泡を載せるスタンダードな注ぎ方だ。炭酸は強く感じられるが、きめ細かい泡によってまったりとした口当たり。
二つ目が「サトウ注ぎ」。適度に泡立てながら一気に注ぎ上げることで、崩れにくいふんわりとした泡ができる。その泡は口の中に入り込みにくく、黄金色の液体だけをダイレクトにゴクゴク飲め、ドライな刺激ののど越しがキリリと光った。
そして三つ目が、やはり名手の呼び声高い松尾光平さん(東京・新橋の「ビアライゼ’98」ビアマイスター)の注ぎ方をアレンジした「マツオ注ぎ」。2度注ぎすることで炭酸が弱くなっておなかが張らず、麦の味わいが深く感じられた。
クラフトビールがブームを迎えるなか、佐藤さんは主流であるピルスナーの魅力をもう一度掘り下げてみたいと考えている。昨年には銀座に、立ち飲みの新店「PILSEN ALLEY(ピルゼン アレイ)」をオープン。スーパードライと注ぎ方だけで勝負している。
「個性的なクラフトビールも定番化。米国でもクラフトのピルスナーがトレンドになりつつある。日本でも大手が造るビールが世界的に評価され、見直されてきている。注ぎ方での変化を体感してほしい」
●持ち帰って即、はNG
店で名人の味を楽しむのもいいが、買ってきた缶や瓶のビールを家でおいしく飲めれば、より身近だ。その極意を教えてくれるのが福島 茶坊主 寿巳さん。
これまで数々の飲食店の運営やクラフトビール提供店舗の立ち上げにかかわってきた経験から、最後の一滴までおいしく味わえる注ぎ方を提唱している。