息子よ。


そのままで、いい。
それで、うちの子。
それが、うちの子。
あなたが生まれてきてくれてよかった。
私はそう思っている。父より

 長男は3歳で自閉症と診断されたが、外見からは障害の存在がわかりにくい。何度も長男が「おはよう」と起こしに来る夢を見ては目覚めた。一念発起して自閉症児の取材を試みたこともあったが、紹介された家庭で、意思疎通が取れない子に対応できず「俺には無理だ」と尻尾を巻いて逃げ帰った。父として、記者として、苦悶した。

 しかし、救ってくれたのも長男の存在だった。「お兄ちゃんはしゃべれないんだよ」。そう言う2学年下の次男は、いずれ兄のことでバカにされ、いじめられて泣くだろうと悩んだ。だが、ふと気づいた。次男は、いじめる人にはならない。生まれた時から障害のあるお兄ちゃんと一緒にいる環境が、お前を優しい、いい男に育てるはずだ。親である自分たちでさえ、長男が生まれなかったら、今の自分たちではないのだ。

 目が覚めた神戸さんは毎日新聞記者だった2004年4月、「自閉症児の父として 知ってほしい先天性障害」という記事を執筆。大反響を受け、「うちの子 自閉症児とその家族」という連載記事を書いた。RKBに転職した後には、自らの長男や妻にカメラを向け、報道ドキュメント「うちの子~自閉症という障害を持って~」を制作して放送、大きな反響を得た。

●悪意にウンザリ

 今回のFBの投稿文には、神戸さんが17年間かけ熟成してきた考えが凝縮されている。シェアは2千件以上、「いいね!」が1万1千件を超え、メッセージは中国語と英語に翻訳され、世界中に拡散を続けている。

 事件から3カ月後の10月26日には、この投稿を巡る反響を中心に構成した『障害を持つ息子へ~息子よ。そのままで、いい。~』(ブックマン社)も緊急出版されることになり、妻や次男も思いの丈を綴った文章を寄せた。神戸さんは言う。

「人の健康の脆さをたくさん見てきた。そうでなくても年を取れば歩けなくなって、モノもしゃべれずに最後はみんな死んでいく。いろいろ考えたけど、俺と息子を線引きできるものなんて、実は何もないんですよ。FBの投稿にも、その辺に共感して『モヤモヤが晴れました』という反響がとても多かった。今回の事件やネットで拡散した悪意に、同じようにウンザリしていた人がいっぱいいたんですね」

 内閣府のまとめでは、国民の6%超が何らかの障害を有している。障害者は決して特別な存在ではない。相模原事件で露呈した「悪意」を打ち消すように芽吹いた「善意」。その芽をこれからも育てていくしかない。(編集部・大平誠)

※この記事はAERA2016年10月17日号からの集中連載「障害者と共生する」の第1回です
AERA 2016年10月17日増大号