●「障害=不幸」ではない

 久保さんの視点にはブレがない。隔離と分断による防犯の思想は、植松容疑者のような「優生思想」をさらに助長しかねない。現にネットには、こんな書き込みもあった。

「これから生まれてくる障害者が医療によって、いなくなればそれはとっても良いこと。命の選別は行われるべきではないというのは偽善に過ぎない」

 しかし久保さんは、こんな卑劣な考え方に与しない。

「障害のある子を授かって、それは楽々と子育てができるわけではありませんよ。つらいこともありますけど、本人がいるからこそ楽しい経験もいっぱいしてきた。障害のある子が我が家にいることイコール不幸ではないのです」

 ネット上に横行するヘイト言説に心を痛めていたMBS毎日放送(大阪市)のプロデューサー、澤田隆三さん(55)は事件後、長年の知人からもらったメールに心を削られた。

「障害者は自己主張が強すぎる。ワガママや」

 17年前の4月に放送した「映像’90 ふつうのままで~ある障害者夫婦の日常」で国際エミー賞を受賞した澤田さんは、編成部にかけあい、急遽、リオ五輪直前の8月4日26時からの枠でこの番組を再放送した。奈良市に暮らす重い障害を持つ夫婦が、周囲の人に支えられ、時に料理をめぐって夫婦喧嘩をし、子育てに取り組む日常を、息子が小学校に入学するシーンまで追ったドキュメントだ。再放送後、MBSの視聴者センターに20代の女性からこんなメールが届いた。

「夜中に何気なくチャンネルを合わせ、引き込まれて最後まで見てしまいました。この番組のおかげで、障害者のことを少し理解できたような気がします。テレビ局がこういうドキュメンタリー番組を放送すること自体が、ひとつの社会貢献ではないでしょうか」

 今回の事件の後だからこそ多くの人に見てほしい。澤田さんの思いが、視聴者に届いた。

●そのままで、いい

 そして、もうひとりのテレビマンの行動が、心を痛める多くの人びとにヌチグスイ(命の薬)のように染み渡った。

 RKB毎日放送(福岡市)の東京報道部長、神戸金史さん(49)は事件から3日後の未明、自閉症の長男(17)に宛てたメッセージを書き上げ、フェイスブック(FB)に投稿した。

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