生瀬勝久さんが表紙の「AERA 2016年10月10日号」
生瀬勝久さんが表紙の「AERA 2016年10月10日号」

 ドラマ「トリック」ではとことん権威にへつらうカツラ刑事。「ごくせん」ではキャバクラ通いがやめられないリーゼント教頭。「侠飯~おとこめし~」では料理上手なヤクザ組長──。奇人、変人に、アクのある演技でリアリティーを与えてきたのが、生瀬勝久その人である。

 大学卒業後、内定していた就職先を断って小劇場の世界へ。30代前半までは貧乏したが、好きでやってきたことだしお金はなくて当たり前。「苦労」とか「下積み」なんて言葉に意味があるとは思えない。大切なのは、目の前の現場にどう向き合うか。関西小劇場シーンを経て、1990年代半ばから全国区のテレビドラマに進出した。

 役者人生は、30年超。

「自分の役割は(物語の)スパイス。男前なら他にいくらでもいますし、『ド真ん中』じゃないんですよ。この仕事を始めたころから、自分の生き方を人と比べたことがないんです」

 50代。近年は、円熟したおとこを演じる機会も増えてきた。10月3日からはNHK朝ドラ「べっぴんさん」に出演。ヒロイン坂東すみれの父親、坂東五十八(いそや)を演じる。モデルはアパレルメーカー「レナウン」を一代で築き上げた佐々木八十八(やそはち)。名経営者である。

 すみれを演じる芳根京子は19歳。これからの若手女優と仕事をするなかで、経験を伝える醍醐味(だいごみ)も感じている。

「言葉は伝わってこそ初めて意味がある」

 だから、

「いまの台詞(せりふ)はもっと強く」

「滑舌をしっかり」

「(口の周りを指して)ここだけでお芝居をしないで、全身を使って」

 生瀬は言う。

「技術を習得する面白みに目覚めてくれればいいな、と思うんです」

 職業人としての矜持(きょうじ)がにじむ。この人がいるだけで、作品に得難いコクと風味が出る。(編集部・岡本俊浩)

AERA 2016年10月10日号