今後は、うつ症状の重症度を数値化できるようにしていく。このようにして、コンピューターがはじき出した情報を利用することで、治療そのものが大きく変わる可能性があるのだ。

「コンピューターが提供する情報を患者さんと共有することで医師と患者さんの間に齟齬が生じにくくなったり、治療の効果が上がったりすると期待しています」

●医師9割がAI診療へ

 今後は、医療の現場だけではなく、日常の生活習慣のデータなどもまとめて解析して健康に役立たせるためのAIが登場すると見られている。個人の地域での生活と、医療の現場がより密接につながってくるのだ。そんな中で、医師はどのように変わっていくのだろうか。

 前出の渋谷教授はこう話す。

「コミュニケーション能力は、今以上に重要になります。学校の成績がいいというだけで医師になると苦労します。医師は、病院内だけでなく地域やコミュニティーの中で健康をケアするためのリーダー的な位置づけになるでしょう。そのためには、経営者のようなマネジメント能力も必要になります」

 知識やデータはAIが担い、医師の役割は、それらをうまく使いこなすことがより重要になるという。

 医師自身は、AIなどのテクノロジーを、どう見ているのだろうか? 医師専用コミュニティーサイト「MedPeer」が今年5月に医師を対象に実施したアンケートでは、回答した3701人の医師のうち90%が、「人工知能が診療に参画する時代は来る」とした。このうち最も多かったのが「10~20年以内に来る」と回答した医師で、全体の33%を占めた。10年以内を含めると、全体の69%が20年以内に、人工知能が診療に参加すると考えているということだ。

 人工知能が医療をする、というとまるでSFの世界のようだが、実際はすでに医療の現場では活用されつつある。

 前出の宮野教授は言う。

「未来は、もうとっくにはじまっているんですよ」

(編集部・長倉克枝)

AERA 2016年10月3日号