国は本来の役割をこなし、医師養成数を縛るのをやめればいい。ロースクールのように増やせばいいんです。ダメな教育機関は退場し、優れた機関は伸びるでしょう。粗製乱造はいけませんが、一定レベルの能力がある人を国家試験で合格させるのは自然です。

●30年後も医師は不足

上:近い将来、医師数が飽和すると考える医師も多いようですが、科学的に明らかに間違っています。私たちの研究グループは数学者と共同で、人口学に基づいたシミュレーションを行った。それによると、現状の医師養成数では、50年まで医師はまったく足りず、今より状況は悪化します。日本は、山手線内の医師数こそ世界でも最高レベルですが、地方は慢性的な人手不足です。医師は足りないとダメで、余っているほうがいい。

K:同意見です。官僚たちは、医師が増えれば診療報酬が増えると考えている節がある。

上:人口当たりの医師数が不足している地域なら、医師が増えれば当然、医療費は増えますよ。しかし、ある程度の数がいれば、医療費は増えません。付加価値のある医師が高収入になり、努力しない医師は収入が下がる。海外に行く医師ももちろん出るでしょうね。

K:不足して行列ができるよりは、競争原理が働き、健全にサービスが提供されている状態が望ましい。

 結局、役所は官僚統制が好きなんです。戦後の成功体験が根強いためか、希少な医療資源を分配して、感謝されたい。医療資源が十分行きわたり、質の競争が始まれば、公権力を行使できず口も出せず、存在意義がなくなってしまう。それを本能的に避けているのかもしれません。

(編集部・澤志保)

AERA 2016年10月3日号