制度開始からまもなく1年。医療機関からの報告数は8月末までの11カ月で356件だった。年1300~2千件とされていた想定数を大きく下回る。
●納得できない遺族も
医療従事者の個人の責任を追及することを目的とした制度ではないが、患者側にとってこの制度はどう機能しているのか。
東京都内の40代女性は昨年11月、母親(当時68)を失った。初期の食道がんで入院した母親は、もともと抗がん剤での治療に強い抵抗を示していた。女性は医師を信じ、母親を説得した。
しかし、抗がん剤の投与から3日目に強い吐き気に襲われ、食事もできない状態に。入院から1カ月足らずで死亡した。死の4日前、ICUに運ばれる母親に「頑張ってね」と声をかけると、母親は声を絞り出した。
「これ以上、どう頑張ればいいの?」
親子最後の会話になった。
女性は言う。
「末期がんであれば納得はいきますが、なぜ医者の言う通りにしてこんな結果になるのか」
「予期せぬ死」と判断した病院は、制度に基づいて院内調査を実施したが、その報告がさらに女性を傷つけた。
「最初は口頭で説明する、と書類を出そうともしなかった。最終的に書類を出したが、A4用紙2枚で担当者名すら書いてなかった」
冒頭のAさんも、説明で納得できたわけではない。
「専門用語で説明され、質問の時間も十分与えられなかった」
Aさんは医学用語が並ぶ報告書を独学で読み解き、病院に対して質問状を送った。
質問状に対する8月の回答では、病院側の説明も当初の報告書の結論とは違っていた。
「動脈の出血による合併症が原因だと。医療事故はあったが、ミスはない。病院に過失はないと、はっきり言われました」
納得できないAさんらは、センターに再調査を依頼した。
アエラの取材に対し、病院側は「第三者機関のセンター調査がこれから始まる。遺族と協議中のため、現段階でのコメントは差し控えたい」と回答した。
再調査で決着がつかなければ、次は裁判しかない。
通常の民事裁判で原告側の勝訴率が80%を超える一方、医療訴訟では20.6%(15年)。平均審理期間も約2年と長く、訴える側の経済的な負担も大きくなる。医学用語が羅列されるカルテ1枚読み解くにも時間がかかり、起訴に至る前に泣き寝入りする遺族が多いのが現状だ。
医療事件を専門に手掛ける石黒麻利子弁護士(54)は、こんな気になる指摘をする。