「新幹線整備は景気を刺激し、長期的な税収増をもたらす。となれば、建設国債で財源を確保しても税収増で十二分以上にまかなえる。ゼロ金利の現状ならさらに合理性がある。田中内閣時代の73年に決められた整備新幹線の終わりがようやく見えてきた。今は地方創生の回路をつくるため、新たな列島改造論を語るべき時なのです」

 鉄道がつくるバラ色の未来像──そこには当然、異論もある。例えば、地方から東京に労働力や産業が奪われる「ストロー効果」だ。本誌にコラムを連載し、岩手県での街づくりにも携わる金融マンのぐっちーさんは藤井理論にこう反論する。

「地方創生のために新幹線を造るというが、新幹線の通った地方都市では富裕層が地元で買い物をせず東京に出るようになり、岩手県の『マルカン百貨店』など地方の有力百貨店が続々と閉店した。東京から地方に人が動くというが、例えば岩手に人が毎年来るわけではない。新幹線は今の時代にそぐわないプロジェクトでしょう」

 三菱UFJリサーチ&コンサルティングの加藤さんは、リニア中央新幹線に関して、その経済効果は「名古屋や大阪はいいが、全国にまんべんなく行きわたるわけではない」と指摘。ストロー効果について一定程度認めつつ、地方都市が便益を得るためには、リニアの駅から近くにある産業の集積地にむけてのアクセスを飛躍的に高めることが必要という。リニアの中間駅ができる中津川(岐阜)や飯田(長野)は高速道やインターチェンジを駅に隣接させることで、近隣の産業集積地帯に人がスムーズに移動できる仕組みを作ろうとしている。

 72年、当時通産大臣だった田中角栄は『日本列島改造論』で、日本の民間設備投資の停滞、輸出制限の動き、そして都市の過密化を指摘。その解決のため、都市に集中した活力を日本列島全体に押し広げることを提唱し、全国の鉄道網と高速道路網、情報通信網の整備を訴えた。

 いま再び国は停滞するが、高速道路と情報通信網は充実している。残された手段は、鉄道だ。(編集部・福井洋平)

AERA 2016年9月26日号

著者プロフィールを見る
福井洋平

福井洋平

2001年朝日新聞社に入社。週刊朝日、青森総局、AERA、AERAムック教育、ジュニア編集部などを経て2023年「あさがくナビ」編集長に就任。「就活ニュースペーパー」で就活生の役に立つ情報を発信中。

福井洋平の記事一覧はこちら