●道路は物、鉄路は人

 今後人口が減ってゆく日本でこれだけの巨大事業をすることに意義があるのかという疑問もわく。それでもなお意義はあると語るのは、12年から安倍内閣の官房参与をつとめる藤井聡・京都大学大学院教授だ。

 藤井教授の近著『「スーパー新幹線」が日本を救う』には、1972年に出版された田中角栄『日本列島改造論』に記載された高速道路ネットワーク(1万キロ)と新幹線ネットワーク(9千キロ)の構想図が記載されている。出版から44年たち、高速道路は角栄構想を上回る1万3千キロが整備されているが、新幹線は3千キロ、構想の3割にとどまる。

 高速道路は物流を促進し、産業振興に役立った。鉄道や新幹線は人の流れを加速する。低成長時代に入ったいま、必要なのは人の流れを加速し、1人あたりの生産性を上げること、と藤井教授は語る。

 リニアにより東京、名古屋、大阪の三大都市圏がひとつの広い都市圏となり、観光客の往来やビジネスパーソンの交流が増えて商売のチャンスが広がり、海外からの投資も呼び込める。三大都市圏のどこに住んでもよくなるため、東京への一極集中も緩和される。

 三菱UFJリサーチ&コンサルティング執行役員の加藤義人さんは、リニアの品川─名古屋間が開業した際の「50年便益」(リニアを整備した場合としなかった場合を比べ、50年間で得られる便益の差)を調査し、10兆7千億円と見積もった。

 藤井教授が整備を求めるのはリニアだけではない。整備新幹線に加え、さらなる新幹線網の拡大が必要だと説く。現在繁栄している太平洋ベルト地帯から新幹線網をさらに細かく張り巡らせ、都市化のエネルギーを地方に波及させるべきというのだ。

 藤井さんが考える「新・列島改造論」の軸となる新幹線路線は次の通りだ。

(1)北九州(小倉)─大分
(2)岡山─高松
(3)北陸新幹線─大阪─関西空港─四国
(4)長岡─上越妙高
(5)山形新幹線のフル規格化
(6)岡山─倉敷─米子─出雲市

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