「2日前の金曜日に肺炎と診断し、抗生物質を投与している。本日の式典では、暑さと脱水症状が影響した。診断の結果、水分を補給し、順調に回復している」

●「替え玉」で死亡説まで

 しかし、今度はチェルシーさんのアパート前に現れたクリントン氏が「替え玉」の可能性があると、保守派メディアが報じ、死亡説まで流れた。根拠は、クリントン氏の顔や首にシワが少なかったこと、紺のスーツがピチピチではなく、余裕があり、痩せて見えたことなどだ。

 今年の選挙戦が特殊なのは、両候補者が高齢なことだ。トランプ氏が当選すれば、70歳と最高齢で大統領に就任、クリントン氏であれば、69歳で史上2番目の高齢で就任となる。オバマ大統領は08年の投開票日時点で、47歳だった。このため、専門家の間では今後、大統領候補は、健康診断書を公表すべきだという声が上がっている。

 過去に健康に問題を抱えた大統領がいなかったわけではない。J・F・ケネディ第35代大統領は、時に杖をつくほどの腰痛とホルモン異常があった。フランクリン・ルーズベルト第32代大統領も、病気の後遺症で車椅子生活を続け、4選した直後、在任中に脳卒中で死亡した。

 しかし、今回の選挙戦で、トランプ氏という、有権者から注目を浴びる過激な発言を続ける候補者が登場し、今までにない熾烈な選挙戦が展開。政策に対する批判ではなく、クリントン氏の健康問題を取りざたしている最中に、同氏が体調不良に陥ったのは、まさにトランプ氏の「罠」にはまったともいえる。

 奇しくも、クリントン氏が勝つ確率というのは、8月上旬に90%だったのが、9月11日に79%にまで低下している(米紙ニューヨーク・タイムズ)。クリントン氏にとっては、体調不良を訴えたことが、さらなる厳しい戦いを約束することになり、9.11が運命の日になってしまった。(ジャーナリスト・津山恵子)

AERA 2016年9月26日号