「後期高齢期を迎え、もう祭りどころじゃないよという人もいる。『だけど、またやろうよ』というのが、まちをよくしよう、そのためにも元気でいなくちゃというパワーにも結びつく。『まるたんぼうが取り持つ縁』もある」

●東京の分断は行き過ぎただからこそ支え合える

「ぬくぬくハウス」(世田谷区)オーナーの温井克子さん(74)の場合は、「学びが取り持つ縁」に自分自身が助けられたという。

 コミュニティーカフェとして自宅を地域に開く。取材中も近所の人や子育て中のママ、高齢者らがかわるがわる出入りして、お茶を飲み、おしゃべりに興じる。中学生の女の子が「これ、私が焼いたんです」とケーキをふるまってくれた。ふらっとやってきた夏休み中の小学生は、将棋を指し始めた。冬のつき会には、子どもが120人も集まって驚いたと温井さん。

「私、家に人が湧いてくるみたいなこと、人生ではじめて経験したわ」

 人懐っこく明るい温井さんだが、5年前に夫を亡くしてからは、2年半ほど家にこもっていたという。引きこもりからの脱出のために考えついたのが、大学に通うこと。社会福祉士の資格を持つ温井さんは、新たに精神保健福祉士を目指して明治学院大学に社会人入学した。

 いまは大学3年生だ。授業で「地域と結びつかなきゃ」という視点を得て、地域の勉強会に足を運ぶようになり、仲間ができて、今日に至る。

「ここを開いてからは、『夫が倒れて独りになり寂しい』という相談の電話もかかってくるようになりました。話すうち、『あなたの声を聞いて救われた』と。いろんな人とつながれて、救われているのは私よ、と思うんですけどね。人生わからないものです」

 全国で高齢者住宅とまちづくりに取り組むコミュニティネット代表の高橋英與さんは言う。

「コミュニティーの分断は、ある意味、高度経済成長の必然でもあった。それが行き過ぎて立ち行かなくなったのがいまの東京。ただ、困っているからこそ支え合えるという側面もある。逆説的だけれど、東京はもっと困ったほうがいいのかもしれない」

(ライター・古川雅子)

AERA 2016年9月5日号