新ルート案(南風時、国土交通省資料から)
新ルート案(南風時、国土交通省資料から)

「国益のため」にジェット機が都心上空を低空飛行することになる。だが、安全や騒音対策など、住民の不安は大きい。

「騒音もそうだけど、モノが頭の上に落ちたら怖いよ」

 東京都品川区に住む男性(65)は、空を見上げ不安を口にした。

 7月下旬、東京都や川崎市など関係自治体は、国による安全・騒音対策の実施を前提に、羽田空港の新ルート案を了承する考えを明らかにした。これにより、東京五輪・パラリンピックが開催される2020年までに、東京都心を旅客機が低空飛行する見通しとなった。

 だが、新ルート案の危険性を訴えてきた大田区の奈須りえ区議は、こう批判する。

「安全性が検証されないまま、グローバル化や豊かな経済のためという漠然とした理由で、新ルートの計画が進んでいます」

●タブーを破り低空を

 新ルートは北風時と南風時の2案が示されているが、とりわけ問題となっているのが南風時だ。着陸機は練馬、新宿両区の上空から、羽田までほぼ一直線に降下。井桁状に並ぶ4本の滑走路のうち、南東向きの「A」か「C」に着陸する。

 運用は国際線が混雑する午後3~7時に限定するというが、1時間に最大44機というラッシュ時のJR山手線並みの頻度で、旅客機が上空を通過する計算だ。

 背景には、20年までに外国人訪日客を年間4千万人にするという政府目標がある。そのため、羽田の発着回数を現行の1時間当たり80回から90回に増やさねばならないと国土交通省は言う。

 従来、都心上空は大型機を飛ばさないという「不文律」があり、現在は南風時も北風時も、千葉県側から東京湾上空を経て進入するルートのみ認められている。ところが、この運用だと、4本の滑走路を離着陸する航空機が交錯することがあるため、発着回数を増やせない。そこでタブーを破り、都心上空を、しかも低高度で飛ばすというのだ。

「羽田空港をより機能強化し、処理能力を増やすことが国益のためには必要。そのためにはどうすればいいかを検討した結果、これしかなかった」

 国交省首都圏空港課の柿沼宏明課長補佐は、取材にそう話す。

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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