久能:天皇、皇后両陛下はどこに行くにもご一緒なので、それが当たり前だと思うかもしれませんが、昭和天皇はお一人でお出かけになることも多かった。今の両陛下のなさり方をそのまま引き継ぐのが当然と考えると、大変なご負担になってしまいます。

──いまとは違う「新しい天皇像」が必要になるということでしょうか。

山下:そもそも、憲法や皇室典範は天皇に「人格」を求めていません。一方で国民の総意を担保するのは天皇に対する敬愛や信頼です。江戸時代までの天皇と違い、現代は「見える」天皇ですから、天皇の人間性が重要になっています。この一見矛盾するロジックをどう理解するか。

 09年に行われた即位20年の記者会見で皇后陛下は「象徴」の意味について、言葉には表し難いが、陛下のお姿の中に常にそれを感じてきた、とおっしゃっています。正鵠を射たお言葉です。象徴とは何かを考えて、そこから天皇を見るのではなく、天皇の姿を通してわれわれは象徴というものを感じればいいんです。そして国民の敬愛や信頼を得られる立派な天皇が輩出できるかどうかは天皇家の問題といってもいいでしょう。

 今回の「生前退位」にしても、「隠居して息子に譲りたい」という天皇家内部の話とも言えます。

近重:本来は家の問題なんですよね。

山下:戦前の旧皇室典範は、皇室の「家内法」のようなもので、帝国議会は口を出せなかった。それが戦後、憲法の下の法律になったことで、今度は当事者である皇室の方々が口を出せなくなった。そもそもの国家と皇室との関係も含めて、抜本的に見直す時期だと思います。

久能:皇室典範は終戦翌年の1946年に一部改正されたとはいえ、骨格は何も変わっていない。制度疲労は明らかです。「天皇のお気持ちだから、いまの天皇陛下だけ(譲位を)認めよう」という話ではありません。

山下:明治の皇室典範は60年持たなかったのに、今の皇室典範は来年で施行70年になります。

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