●みんなは一人のために

 タックルが認められている唯一の車いす競技が、ウィルチェアー(車いす)ラグビーだ。日本代表のエース池崎大輔(38)は、初めて競技を見たとき、その激しさに驚いたという。

 選手たちは思い切り相手にぶつかっていき、ガツンと鈍い金属音が響く。車いすがひっくり返ることもある。車輪につけられたカバーは衝撃でへこみ、傷だらけの車いすが激しい戦いを物語る。

 6歳のときに手足の筋力が低下する難病と診断された池崎は、高校2年生から15年間、車いすバスケに打ち込んだ。だが、手の力が弱く思うようなプレーができずに悩んでいた。30歳のときに出合ったウィルチェアーラグビーは、四肢に障がいがある選手がプレーできるように考案されたスポーツ。池崎は転向を決意し、バスケで磨いた車いすの操作技術を武器に2年目で日本代表入り。ポイントゲッターとして頭角を現した。

 ウィルチェアーラグビーは車いすバスケと同様、選手には障がいに応じた持ち点があり、障がいの重い選手は守備用の車いすを駆使して相手をブロック。その間に小回りの利く攻撃用車いすに乗った選手がゴールラインを切る。ボールを前に投げられるし、球も丸い。一見すると一般的なラグビーとは似ていないが、池崎によれば「精神はラグビーそのもの」。「ONE FOR ALL ALL FOR ONE(一人はみんなのために、みんなは一人のために)」が息づいている。

 リオ・パラリンピック予選を兼ねた15年秋のアジア・オセアニア選手権では、ロンドン・パラの王者、オーストラリアを破って初優勝。世界ランキングも3位に浮上した。リオでは、初のメダルが期待される。

「多くの人に支えられてここまで来られた。だから、世界一になりたいんです」(池崎)

(文中敬称略)

(編集部・深澤友紀)

AERA 2016年4月4日号