ラン用の義足で走ってみた。風を切る感覚は18年ぶり。

「義足って、かっこいい」

 そう思えて、潮の流れ、風、気温、天候など、自然を体感できるトライアスロンに引き込まれていった。いまは、朝6時から2時間練習し、午前9時から午後5時半までフルタイムで働いた後、午後7時からはまた2時間の練習。昼休みが貴重な睡眠時間で、昼食をサッと済ませた後は車の中で座席を倒して横になる。なぜ、頑張れるのか。

「スポーツを楽しめなかった時間を取り戻しているのかな」

●何もあきらめたくない

 義足のアスリートとして、初めてのパラリンピック・メダリストになったのは、両足とも義足の藤田征樹(31)だ。自転車(パラサイクリング)で北京、ロンドンと連続でメダルを手にしている。

 自転車に乗るときは、細い先端をペダルに直接固定できる特注の義足をつける。健常者は足首を動かすことで体重をペダルに乗せるが、それができない。

「どう自転車に自分の力を伝えるか試行錯誤している」

 北京パラリンピックで三つメダルを取った翌年に日立建機に入社。大学、大学院で機械工学を学んだ藤田はアスリート雇用ではない。エンジニアとしてフルタイムで働き、残業もする。平日は仕事の後、屋内でローラー台に自転車を取り付けて練習し、週末は合宿や自主トレで長い距離を走る。

 限られた練習時間で世界のトップと戦う実力を保つのは簡単ではないが、藤田は健常者の一般レースにも参戦してレース感覚を磨き、ロンドン・パラリンピックでは2大会連続のメダルをつかんだ。15年のロード世界選手権では、2位以下に1分以上の大差をつけて初優勝。世界チャンピオンだけが着ることを許された虹色のジャージー「アルカンシェル」も手にした。

「仕事も自転車もあきらめない今のやり方が、常にベストかどうかはわからない。でも、難しい挑戦で結果を出すからこそ価値があると思う」

 次に狙うのは、パラリンピックの金メダルだ。(文中敬称略)

(編集部・深澤友紀)

AERA 2016年4月4日号