●築地再整備は可能

 小池百合子都知事は市場問題プロジェクトチームを立ち上げ、問題に取り組んでいく姿勢を示したが、課題も多い。

 豊洲市場のある土地は、元々は東京ガスの工場があった。08年の都の調査で発がん性物質のベンゼンが基準値の4万3千倍検出されるなど、汚染問題は深刻だ。この問題に深く関わる1級建築士の水谷(みずのや)和子さんは、その調査自体にも問題があると指摘する。

「都への開示請求などから約300の未調査箇所があることが分かっている。また、専門家会議が出した汚染対策費が1300億円なのに対し、その後に発足した技術者会議の汚染対策費は586億円。経緯が明らかになっていない」

 日本環境学会元会長の畑明郎さん(70)も、08年の調査を元にした汚染対策に問題意識を持つ。

「東日本大震災時の液状化で、高濃度汚染地点が移動している可能性があります」

 施設自体にも大きな問題を抱える。建築エコノミストの森山高至さん(51)はこう話す。

「トラックの側面から荷下ろしできない、床積載荷重が不十分など問題が多い。致命的なのは、商品を仕入れる卸売業者と、それを仕入れる仲卸業者の売り場スペースが別々の棟に分断され、アンダーパスと呼ばれる地下の細い道しかない。フォークリフトやターレと呼ばれる電動車両の渋滞は必至です」

 当初計画の2.77倍に膨れ上がった2747億円の建設費にも大きな疑問を持つ。

「高く見ても900億円と考えます。また、築地を運営しながらの再整備も可能です。1日40万人近い人が利用する渋谷駅でも深夜の時間を使い、副都心線工事などを完遂させている」

 パンドラの箱を開けた小池知事の前には数々の問題が。延期で生じる市場関係者の損害を都が補償する場合、都議会で補正予算を組む必要も出てくる。

 政治ジャーナリストの鈴木哲夫さん(58)はこう話す。

「たとえ年度をまたぎ、本予算への議会承認が必要となっても、対立は起きないと考えます。来年夏に都議選を控え、支持率の高い小池さんと対立するような姿勢は見せにくいでしょう」

●モノとコトを売る計画

 白紙撤回の可能性も周辺で語られている。

「築地を豊洲に一時移転し、その間に築地を改修するという案が出ています。09年の鳩山政権時に、築地改修案が固まった。あのときのプランは今も生きている」(都議会関係者)

 先日の会見で小池知事も白紙撤回の可能性について議論の余地を残した。ただ、その場合は新たな対案を示す必要がある。新国立競技場の建設問題が浮上した際、五輪後に新国立をスポーツ施設に分割する新計画を提案した後藤田正純衆議院議員はこんな提案をする。

「たとえばの話ですが、私が都知事なら渋谷の一等地にあるNHKを豊洲に移すとか、東京ガスがスポンサーのFC東京のスタジアムを造るとか、“コストセンター”を“プロフィットセンター”に変えるビジョンが必要。サッカーを見て、築地のすしを食べて帰る。モノとコトを売る都市計画が必要です」

 豊洲が抱える問題が大きい分、有効な利用策があれば、一気に移転中止の道も見えてくる。(編集部・澤田晃宏)

AERA 2016年9月12日号