お茶の水小の池田校長いわく「保護者は力強いサポーター」。保護者がお父さん・お母さん先生と称して授業をすることも。親にとっても学校の教育方針を実感できる良い機会だ (c)朝日新聞社
お茶の水小の池田校長いわく「保護者は力強いサポーター」。保護者がお父さん・お母さん先生と称して授業をすることも。親にとっても学校の教育方針を実感できる良い機会だ (c)朝日新聞社
愛子さまは学習院女子中等科の3年生。「保守的な教育は良いが皇室の期待に応えられていない」と言う学者も (c)朝日新聞社
愛子さまは学習院女子中等科の3年生。「保守的な教育は良いが皇室の期待に応えられていない」と言う学者も (c)朝日新聞社
ドアのない教室では授業中の声も筒抜けだとか(撮影/竹下郁子)
ドアのない教室では授業中の声も筒抜けだとか(撮影/竹下郁子)
図書室も壁がなくオープンだ(撮影/竹下郁子)
図書室も壁がなくオープンだ(撮影/竹下郁子)
校庭の芝は保護者も管理をサポートする。隅にはビオトープも(撮影/竹下郁子)
校庭の芝は保護者も管理をサポートする。隅にはビオトープも(撮影/竹下郁子)

 時代に合う新しい教育を常に模索してきたお茶の水女子大学附属小学校。もうすぐ夏休みが明ける8月終盤、悠仁さまが学ぶ教育現場をたずねた。

 誰もいない教室には、日頃の学習成果を発表した模造紙が所狭しと貼られ、床には水槽、虫かご、工作途中の物体が無造作に転がっていた。

 3年生までは教室に壁がない。可動式のパーテーションで仕切られているだけの超開放的な空間だ。

 牛乳パックで作った鉛筆立てを見た瞬間、懐かしさにクラクラしてしまった。お世辞にも片付いているとは言えないが、今にも子どもたちの声が聞こえてきそうなその空間を、教師たちは「おもちゃ箱」と呼ぶ。

 秋篠宮悠仁さまは、このお茶の水女子大学附属小学校の4年生だ。幼稚園からお茶の水附属に通い、そのまま小学校に進学した。

 お茶の水小は、明治11年開校。130年以上の歴史を持つ同校では、時代に合う新しい教育を常に模索してきた。2000年代後半から取り入れているのが、欧米でも進歩的といわれる「シティズンシップ(市民)教育」だ。目指すのは、異なる他者の考えを受け入れて、自分の考えを深め、再構築していく力を育むこと。すべての科目でこの思考法が身につくよう工夫しているが、さらにそれを深めるために昨年から設けられた新教科がある。その名も「てつがく科」。

●まずは聴き合う姿勢

 授業の基礎となるのが「サークル対話」だ。1クラス30~35人の生徒たちがみんなで輪になり自由に話し合う。この日はある男児の、とある習慣の話から。

「いつからか忘れたけど、靴下を洗うようにしました」
「え? 靴下洗うの?」
「誰が? 洗濯機が洗うの?」
「違う、僕が」
「洗濯機じゃないんだ」
「自分で洗っているの?」
「そう」
「手で? 洗濯機で?」
「石鹸をつけてたわしでこする」
「家に洗濯機はないの?」
「ないわけないじゃん」

 これは1年生のクラスで実際に行われた対話だ。ある児童にとっては当たり前の「靴下洗い」も他の児童にとっては未知の世界。他人の話にしっかりと耳をかたむけて靴下を洗う姿をイメージできる児童もいれば、「洗濯=洗濯機」から抜け切れない子も。学年が上になるにつれ会話の内容は変化するが、狙いは共通している。

「自分の当たり前が世の中ではそうじゃないと知ってほしい。まずは“聴き合う”姿勢を育みたいんです。そして自分の思いを言葉にして表現すればお互いに分かり合えて面白いと感じてくれたら嬉しいですね」(神戸佳子副校長)

 教師は児童たちの輪の外でファシリテーターに徹する。何かを押し付けるのではなく、子どもたちが自ら問題を発見し、深めていけるようサポートする「子ども中心主義」だ。

 大切なのは彼らの主体性を引き出すこと。音楽室は常に開放され、超高級グランドピアノをはじめ楽器は使い放題。給食には児童発案のメニューが並ぶこともある。そんな子ども中心主義は幼稚園から続く伝統だ。

 悠仁さまも通ったお茶の水女子大学附属幼稚園は、みんなで一緒に絵を描いたり体操をしたりする「一斉保育」ではなく、「自由保育」を行う。何をして過ごすかは児童が決めるのだ。

 女子高生ライターとして活躍し、今年、高校生起業家コンテストで優秀賞を獲得した七瀬くるみさん(16歳・高校2年)も、幼稚園からずっとお茶の水附属に通っている。

 今は学生団体を立ち上げ、リーダーとしてみんなをまとめているが、その原点にあるのは幼稚園時代に夢中になったお店屋さんごっこだ。需要と供給のバランスをみること、スタッフを思いやる気持ちを培ったという。

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