オフィス・ノア代表(熊本市在住) 田上寛美さん(41、右)/スーパーウーマンプロジェクト副代表理事も務める。仕事があって、子どもが学校に通える。そうした「日常」が貴重だと話す。娘の愛海さん(左)と(撮影/編集部・野村昌二)
オフィス・ノア代表(熊本市在住) 田上寛美さん(41、右)/スーパーウーマンプロジェクト副代表理事も務める。仕事があって、子どもが学校に通える。そうした「日常」が貴重だと話す。娘の愛海さん(左)と(撮影/編集部・野村昌二)

 本を襲った大地震から約4カ月。被災地にはいまだ震災の爪痕が残る。目に見える被害だけでなく、仕事の不安やメンタル面、家族関係など、どう日常を取り戻したのか。

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「いろんなことがあり過ぎて、1年以上前のような感覚です」

 シングルマザーの田上(たのうえ)寛美さん(41)は、言う。

 熊本市内にある築23年の自宅マンションは、2度の地震で「半壊」。室内のタンスや食器棚は倒れ、壁にヒビも入ったりしたが、構造上とくに問題がなかったので、そのまま住むことができている。

 中学2年の娘、愛海(まなみ)さん(14)がいる。そんな田上さんにとって、震災後、もっとも大変だったのは仕事だ。

 仕事はフリーのキャリアコンサルタント。熊本市内に「オフィス・ノア」を構え、市内の大学で就職支援や女性のキャリア支援などをしている。それが大学も地震で被災し、「前震」翌日の4月15日の就活セミナーはキャンセルとなり、GWに予定していたキャリア研修もすべてキャンセル。結果として、3週間近く仕事がなかった。

「突然の収入減は、不安でいっぱいでした」

●シングルマザーは窮地

 4月の仕事が減り、翌5月に振り込まれる給与は激減。5月以降どうやって生活すれば……。肉体労働をしようと本気で考え、求人誌を購入もした。だが、娘の中学校は1カ月ほど休校で、余震も続く不安定な状況の中、娘を置いて仕事に行くのも不安で踏み出せなかった。

「実感として、災害が起きると、男性より女性のほうが大変です」

 特に小さな子どもがいる母親は、保育園や学校が休園・休校となる中、仕事に出にくい。そこに輪をかけ、「シングルマザーは大変」という。避難所では、子どもが小さければ、トイレに行くにも子どもを置いては行けない。子どもが心配で、車中泊をしたり、倒壊するかもしれない自宅に戻ったりしたシングルマザーもいた。重い物資を運ぶのも大変だ。そして、収入減。今回の地震で多くのシングルマザーは、仕事が激減し、窮地に立たされた。

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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