首都直下地震による全壊・火災危険度(2013年12月に、中央防災会議首都直下地震対策検討ワーキンググループが発表した、「首都直下地震の被害想定の対策について(最終報告)」から。都心南部直下地震、冬夕、風速8m/sのとき)
首都直下地震による全壊・火災危険度(2013年12月に、中央防災会議首都直下地震対策検討ワーキンググループが発表した、「首都直下地震の被害想定の対策について(最終報告)」から。都心南部直下地震、冬夕、風速8m/sのとき)

 阪神・淡路大震災、東日本大震災、地震……。数々の大震災に続き、危機が迫っているのが首都直下地震だ。過度な人口密集地域であり、大量の帰宅困難者も予想される。東京だからこそ被害が拡大する恐れがある。

 政府の地震調査研究推進本部(地震本部)が、「30年以内に70%程度の確率で発生する」と予測するマグニチュード(M)7級の首都直下地震。中央防災会議は、都心南部が震源となる最悪の場合は、首都圏全体で最大2万3千人が亡くなり、その約7割は火災によると予測している。

 阪神・淡路大震災の死者の約8割が家屋の倒壊や倒れた家具などの下敷きによる圧死、東日本大震災の死者の9割が津波による溺死だったことと比べると、火災による死者が突出している。

 歴史上例にない人口過密地域で起こる首都直下地震。それがもたらす最大の災禍は「火災」であり、逆に言えば火災を減らすことができれば、被害は大幅に抑えられる。

 関東大震災(1923年)で最も死者の多かった東京都墨田区は、全169町会・自治会にスタンドパイプと呼ばれる消火器具を2013年度から配備し始めた。消火栓にこのパイプを差し込み、消防用ホースをつなぐ。同時多発する火災や倒壊建物に道をふさがれて消防車がすぐに到着できないとき、地域住民による初期消火に使ってもらう。

 これまで使われていた小型消防ポンプに比べて軽くて操作も簡単で、女性や高齢者でも取り扱いやすい。都は水道局と協力して、通常は水道工事に使う「排水栓」にもスタンドパイプが接続できるようにし、細い路地の奥などでも使えるようにした。

 都では、スタンドパイプをうまく活用すれば、地震で断水して消火栓がある程度使えなくなったとしても、都全体では延焼面積を約109ヘクタール減らし、死者を337人少なくできると試算している。

●関東大震災から学ぶ

 昨年4月、東京消防庁は地震時における消防署別の火災被害推計をまとめている。墨田区北部を管轄に持つ向島消防署は、予想出火件数は26件。死者は全81署のうち本田署(葛飾区)についで2番目に多い403人、延焼面積はワースト4位。「出火件数は多く、鎮圧数はやや少ない。そのため、延焼面積が非常に大きい。90分後までの焼け止まり率も低く、延焼が広がりやすい」と評価された。超高齢化に伴い自力で避難が難しい人の犠牲が今後増えるとも予測された。

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