舞台となっている「この体」は、同じ人体だそう。

「インフルエンザにかかったり、寄生虫のアニサキスに齧られたりと、気の毒になってきますが、細胞たちの日常を描いていたのでは、マンガとして退屈なものになってしまうので、これからも散々な目に遭わせることになりそうです」(同)

 デビュー作からの担当編集者、講談社の芝尾裕之さんは最初から手応えを感じていたという。『はたらく細胞』の原型であるデビュー作が掲載されたとき、新人は票をとりにくい読者アンケートで、上位に食い込んだ。

「人体の細胞を擬人化した読みやすさと『なんか新しい感』が魅力なのだと思います。多彩なキャラクターの自然な動きやふるまい、コマの細部にいたるまでの緻密な描き込みといった、清水先生の表現力、マンガとしての力はもちろんです」(芝尾さん)

 読者からは「勉強になる」との感想が多く寄せられるそうだが、ときにマンガとしての面白さ、読みやすさを優先することもあるので「その点はご了承ください」(同)とのこと。

●専門家が読んでみると

 書評家としても知られ、『エピジェネティクス』などの著書もある大阪大学の仲野徹教授に感想を聞いてみた。
「細胞を擬人化するというアイデアが斬新ですね。特にうまくまとめてあると思ったのは、T細胞の胸腺での教育や(12話)、赤芽球の脱核なんかもしぶくていいですね」(仲野さん)

 一方、免疫反応でいちばん重要な、抗原特異性については、正確さを増しつつ、物語をふくらませられそう、とのこと。

「細胞の個々の機能について、突っ込んで描いてあるのがおもしろいですね。細胞について興味をもった人には『マンガでわかる免疫学』もお薦めです」(同)

(ライター・矢内裕子)

AERA 2016年9月5日号