●復職できないと焦り

 マザーネットは、13年から企業向けの「保活コンシェルジュサービス」を提供している。現在は22社と契約し、約200人の従業員の保活をサポート。地域や時期によって異なる事情をアドバイスしたり、役所や認可外の園に電話をするなど保活の「代行」もしている。

 従業員のために、事業所内保育施設をつくる企業もある。近所の認可に預けるまでの一時的な利用が多く、保活難民となった親たちの駆け込み寺として機能している。そんな施設で今年3月、痛ましい事故が起きた。

 東京都中央区日本橋室町のキッズスクウェアは、複数の契約企業の従業員の子どもを預かっている。賢人くん(当時1歳2カ月)は3月11日、ここで亡くなった。

 賢人くんは14年12月生まれ。母親(39)は、

「1歳までは家庭で育てたい」 と、16年4月の復職を希望していた。出産前から近所の認可、認可外の保育園を見学したが、空きはなかった。復職予定日が迫って困り果てていたとき、勤めている会社がキッズスクウェアに確保している枠が一つだけ空いていることがわかった。

「会社の保育園なら、出退勤の時間も賢人と一緒にいられる」

 見学したのは昼寝中で、部屋は真っ暗にされていた。保育士がちゃんと子どもの様子をチェックしているのか不安になった。「やっぱりここには預けたくない」と夫に相談したが、預けなければ復職が難しくなる。「認可に預けられるまでの間だけだから」と入園を決めた。

 預け始めてから1カ月も経たない日だった。昼寝の後に迎えに行くと賢人くんの意識がなかった。後で調べると、賢人くんを一人でうつぶせに寝かせたまま、職員は別室で作業をしていて様子を見ていなかったことがわかった。安全管理に問題があったとして、都は運営会社に行政指導をした。母親は訴える。

「一つしかない空きが埋まってしまうかもしれない、復職できないかもしれない、という焦りがあった。できるならもっと一緒にいたかった。預ける保育園や時期を親が決められない状況はおかしい。自己責任でどうにかできる問題ではありません」

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