一方、地獄も負けていない。累計1千万部を超える、地獄を舞台にしたマンガ「鬼灯(ほおづき)の冷徹」や、宮藤官九郎脚本・監督の「TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ」のヒットを見ると、「地獄、本当にブームなのかも」と思えてくる。地獄についてもっと知りたい人は、国立公文書館で開催中の「ようこそ地獄、たのしい地獄」展(8月27日まで)へぜひ。

 誰もがその名を知る「日本霊異記」をはじめ、「道成寺絵詞(どうじょうじえことば)」など貴重な資料が展示されている。「堕獄の罪」「地獄は何処に」「地獄の責め苦」「冥官と獄卒」と、地獄の仕組みがわかる展示が続き、震える気持ちになった頃、「たのしい地獄」が登場。

 ジョークが好きだった江戸人にとって、閻魔大王や鬼たちなど「濃いキャラ」に富んだ地獄は、笑い咄(落語)や戯作本の貴重なネタだった。今でも人気がある河鍋暁斎「暁斎画談」からは、破綻した地獄から閻魔王が極楽にやってきて、再就職を頼む絵が展示されている。まさに現代のクリエイターが考えそうな内容だ。広報によると、親子連れはもちろん学生の来館者も多いとのこと。

 そもそも地獄絵は、仏教への帰依をうながすために寺でかけられたもの。お盆、お彼岸と続く夏の終わりに、美術館で少しだけ、来し方行く末を考えてみては。(ライター・矢内裕子)

AERA 2016年8月29日号