舞台は、人工知能を備えた人間そっくりのヒューマノイドが人口の1割を占める近未来社会。「週刊少年チャンピオン」で連載中。7月に単行本の第2巻を刊行 (c)山田胡瓜(週刊少年チャンピオン)
舞台は、人工知能を備えた人間そっくりのヒューマノイドが人口の1割を占める近未来社会。「週刊少年チャンピオン」で連載中。7月に単行本の第2巻を刊行 (c)山田胡瓜(週刊少年チャンピオン)

 今年一気に「バズワード」と化した人工知能(AI)。AIは、もはや研究室に留まってはいない。私たちのすぐそばで、暮らしや職場を「最適化」し始めている。人間の趣味、嗜好や心の機微まで理解する新しい知能。私たちはAIと、どう付き合っていけばいいのか。漫画『AIの遺電子』作者の山田胡瓜さんに話を伺った。

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 人間と機械がどうやって一緒に生きていくのか、小学生の時に映画「2001年宇宙の旅」を見て以来ずっと興味がありました。漫画家を夢見ながらIT関係の記者をしていましたが、取材しながらAIがSFの話ではなくなってきていると感じ、自分自身でこのテーマを考えたいと思うようになりました。

 漫画『AI(アイ)の遺電子』では、ヒューマノイドが人間扱いされ、社会に溶け込んだ世界を描いています。ヒューマノイドは時に、人間から差別され悩み苦しみます。しかし、多くの人にとって彼らは友人であり、家族や恋人として欠かせない存在でもあります。僕が彼らを、人間と同じような存在として描くのは、AIを単純に道具として扱わないほうがいいと思うからです。

 AI、特に汎用AIは人間の脳や心を解明する研究から生み出されるはずです。それを道具扱いすることは、回りまわって、人間がずっと大事にしてきた価値観を脅かすことになると思うのです。
 YouTubeで、米国のボストン・ダイナミクス社が開発したロボットが、人間に棒で突かれて倒れたり、邪魔をされながらも立ち上がって荷物を黙々と運んだりする映像があります。映像はロボットの機能の凄さを見せるためのものですが、多くの人は、人間に突かれて倒れるロボットを見て悲しいと感じるでしょう。人間は、たとえ機械だと理解していても、自分と似たような姿形のものが、傷つけられるのを見ると心が痛むんです。

 すでに映画ではありますが、いずれロボットに恋をし、人間よりそちらがいいと思う人が出てくるでしょう。その人にとってロボットは単なる道具ではありません。それは今の感覚からしたら、異常かもしれません。でもその人がそれで幸せならいいんじゃないですか。そんなふうにAIの登場は、僕たちの価値観を変えていくと思います。

 ビジネスでは今、「結果がすべて」とされています。その価値観を突き詰めれば、AIにやらせたほうが間違いはないし効率的ですから、人間は完敗します。でも、人間のダメな部分も含めて大切にしていこうとか、人間らしい暮らしをするためにAI側に譲歩してもらおうとか、寿命を設定しようとか、いろんな考えが出てくるでしょう。

 AIと共生するためには、AIが起こす間違いにどう対処するかも重要なテーマです。果たしてそれを許容すべきなのか。AIは人間にとって大事な価値や幸せとは何かを問いかけてきます。それを考えるうえで僕の描く漫画が少しでも役に立てば、嬉しいです。

AERA 2016年8月22日号