島田雅彦(しまだ・まさひこ)/作家。法政大学国際文化学部教授。『暗黒寓話集』『虚人の星』など著書多数(撮影/編集部・石臥薫子)
島田雅彦(しまだ・まさひこ)/作家。法政大学国際文化学部教授。『暗黒寓話集』『虚人の星』など著書多数(撮影/編集部・石臥薫子)

 今年一気に「バズワード」と化した人工知能(AI)。AIは、もはや研究室に留まってはいない。私たちのすぐそばで、暮らしや職場を「最適化」し始めている。人間の趣味、嗜好や心の機微まで理解する新しい知能。私たちはAIと、どう付き合っていけばいいのか。作家の島田雅彦さんに話を伺った。

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 人類は自ら作り出した道具によって、発想や生き方を変え続けてきました。物書きは、コンピューターの登場によって、手書きや煩雑な下調べ作業から解放され、情報収集や編集も新たな筆記具であるパソコンに依存するようになりました。創作や思考の方法を変えたわけです。

 ものづくりの世界でも3Dプリンターの登場で、作業の概念自体が変わりました。人力に頼っていた労働を機械に委託したのが産業革命で、創造や思考をも委託したのが情報革命なら、人工知能(AI)はその延長線上に位置します。

 地球ではこれまで大絶滅が5回も起きています。その中で人間は時代の環境にうまく適合し、はびこることに成功した。しかし今後も地球の主でいられる保証はどこにもない。AIにその地位を明け渡し、累々と積み上げられてきた屍の系譜に加わる──AIがこのまま発展を遂げれば、それも必然かと思います。

 近い将来、AIがナノテク技術を駆使し、DNAや生体組織を吹き付けて本物そっくりの臓器を作ることは十分考えられます。その臓器が組み合わさっていけば「生き物」ができる。地球上に今まで現れなかった生物を作ったり、絶滅した生物を復活させたりもできる。AIが創造主、つまり「神」となる瞬間です。これまで概念上にしか存在しなかった神が実体化することになります。

 そのようにAIが世界を支配する前に、我々が考えるべきことがあります。まず倫理問題。人間に有害なものを作ってはならないとか、自動運転車の右から子どもが、左から高齢者が来た時にどうすべきか、といったことです。最も優れたAIを開発した者が情報と技術を独占し、国家以上の力を持つことになる。それをどうコントロールするのかも課題です。

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