国や自治体の対応を待っていられない。自分たちができることから始めるしかない──。そう考えて実行に移した教師もいる。中学の体育教師を務める30代の女性Bさんはその一人。3人の子を持つ母だ。

「長女の子育てのときは実家に全面的に頼り、朝練・夕練・休日練とこなしていました。娘と会えるのは寝顔だけ。小学校低学年のときに娘が精神的に少し不安定になったときがあって、担任の先生に『お母さん、何のために働いているの?』と言われたことが忘れられません」

 3人目の妊娠中、部活が教育課程外であることを初めて知った。「教師でも知らない人は多いと思います」とBさんは言う。職場へ復帰後、部活の顧問を初めて断った。今年は活動日数をめぐり軋轢の起きていた部に関わり、週1日の休養日を設けた。今後はさらに一歩踏み出して、「あるべき部活のモデル」を打ち出していきたいと考えている。

●体力向上部は45分限定

 Bさんが動くきっかけとなったのは、東京都世田谷区立東深沢中学校の「体力向上部」の存在を知ったことだった。活動は週4日、朝の45分間のみ。放課後や土日の活動はない。スポーツは好きだが、勝ちを求めて根を詰めるほどはしたくない。そんな生徒たちの受け皿として、4年前につくられた。

「生徒は競わず、自分のペースで、スポーツをゲーム感覚で楽しんでいます」(顧問教諭)

 Bさんが構想している「部活」は、活動は週3回、放課後の1時間のみ。国語教師が漢字検定、英語教師が英語検定、体育教師が新体力テストに向けた指導をそれぞれ行う。

「これなら教師がボランティアの範囲でできるし、自分たちの専門性も生かせる。負担が軽く、生徒のためにもなる。管理職に提案したいと思っています」

 民間人校長の平川理恵さん(横浜市立中川西中学校)は「中学の教師を多忙にしている一番の要因は部活」と言い切る。しかし、ほとんどの保護者が、部活が教育課程外であることや教師のボランティアによって担われていることを知らない。このため保護者との茶話会の席で説明し、次のように話したという。

「部活の活動日数については、担当教師の裁量に任せています。希望にそぐわない場合は、地域のクラブチームやカルチャーセンターを利用してほしい」

 教師にも無理のない範囲で活動するよう、声をかけている。

「1年で部活に対する保護者の見方は少し変わりました。まずは周知することが大事です」

 部活の顧問を拒否する教師も、署名活動に参加した教師も、部活の価値を否定してはいない。しかし、位置づけを曖昧にしたまま肥大化した部活が、見直しの時期にきているのは確かだ。保護者や地域も巻き込んだ議論が必要だ。(編集部・石田かおる)

AERA 2016年8月22日号