●「惑星X」と「テュケー」

 太陽系外縁部の姿が次第に見えてくるにつれ、そこに存在する天体の軌道についても研究が進みつつある。天体の軌道分布は、それらの天体の起源や進化、あるいは未知の天体が存在するかどうかについて示唆を与える。EKB領域の天体は、一般に軌道の傾きが大きく、細長い楕円軌道を持つものが多い。このことは、太陽系生成時に海王星がじわじわと外側に移動してきて、それらの天体の軌道を乱した結果と考えられている。

 ただ、それだけではなさそうでもある。08年には神戸大学の研究グループが、それらの分布が未知の大型天体「惑星X」の存在を示唆するものだと結論づけた。地球の0.3~0.7倍ほどの質量で、現在120億キロ以遠にあり、軌道の傾きは20~40度と推定している。

 11年にはアメリカの研究者が、彗星の軌道分布をもとに、木星の4倍以上の天体が2兆キロもの遠方に存在すると発表した。ギリシア神話の運命の女神にちなみ「テュケー」と仮に名付けられた。このくらい大型の天体になると、赤外線天文衛星で発見されてもよさそうだが、その兆候はまだない。

●すばるで探せ第9惑星

 極めつきは16年1月に発表された「第9惑星」の予測である。これまで、かなり遠方まで達する軌道を持つ天体がセドナを含め6個ほど見つかっている。それらの軌道分布が、どうみても片一方に偏っているのである。これは偶然ではないと考えたのが、エリスを発見した前出のブラウン氏らであった。未知の天体を仮定してシミュレーションしたところ、これらの軌道の偏りは、6個の天体の反対側に、地球の10倍重い第9惑星が存在すると、うまく説明できることを見いだしたのだ。冥王星を9番目の惑星から外すきっかけになったエリスの発見者が、再び自分たちで第9惑星を予測することになるとは、面白い巡り合わせである。

 太陽系の果てのまだ見ぬ惑星X、テュケー、第9惑星は本当に存在するのか? 実際に第9惑星を探す試みも始まりつつある。最も捜索に適しているのが、日本の「すばる望遠鏡」だ。設置された約8億7千万画素の超広視野主焦点カメラ(ハイパーシュプリームカム=HSC)は、世界の口径8~10メートル級の大型望遠鏡の中で唯一、きわめて広視野をカバーできる。現在、人類が宇宙を見る目としては究極のカメラである。もしかしたら、発見の報を聞くのは間近かもしれない。(国立天文台副台長・渡部潤一)

AERA 2016年8月15日号