この写真技術によって、太陽系はさらに広がった。1930年、ローウェル天文台のクライド・トンボーが写真乾板を用いて冥王星を発見したのである。その軌道は大きく傾き、歪んでいたものの、かなり大型の天体であることは確実視されたため、冥王星は「最果ての惑星」の地位に落ち着き、太陽系は約60億キロにまで広がったわけである。

 冥王星は、発見されたときには地球ほどの大きさがあるといわれたが、観測が進むにつれ、その推定値はどんどん小さくなっていった。70年代には、衛星カロンが発見され、月よりも小さい天体であることがわかったのだ。それでも、太陽系最遠の惑星の座にすわり続けた。ただ、あまりに遠いため、表面に明暗がある以外、その詳細は全くわからなかった。太陽から遠く小さいため内部が冷えるのも速く、月と同様に、その表面は古いまま地質学的な活動がやんでしまい、クレーターだらけの静かな世界だろう、というのが大方の予想だった。

●最近まで地質学的活動

 だが、宇宙は本当にわからないものである。その予想は見事に裏切られた。2015年7月に接近したアメリカの探査機ニューホライズンズは、冥王星には驚くほど活発な地質学的活動が最近まであったという証拠を次々と見つけたのだ。

 第一に、表面の新しい領域の存在である。茶褐色だけでなく、真っ白な「ハート」に見える領域があり、そこにはクレーターがほとんどなく、ごく最近(1億~1千万年前)できた氷の平原があった。窒素の氷河(氷床)の流れた地形や、不思議な模様も目立つ。マイナス200度を下回るような極寒の地でも、窒素などの液体が存在し、流動しているようで、液体窒素の湖の跡も発見されている。

 第二に、平坦な新しい領域の端にある、巨大なブロック状の山々の存在である。富士山級の高さの角ばった氷のブロックが乱雑に連なっているのは、水の氷の塊が窒素や一酸化炭素の氷の海に浮かんでいるらしい。

 第三に、南極付近には氷火山のカルデラではないかと思われる大きなくぼみがあることだ。高さ数キロの山の頂にあり、その裾野は100キロに及ぶ。噴き出してきたのは、一酸化炭素や水の氷を含んだ液体窒素だろう。これらは太陽系最遠の氷火山かもしれない。いずれにしろ、これらの地形は全く予想されておらず、活動の熱源が何なのかは謎のままである。

 ニューホライズンズは19年1月1日、さらに外側にある冥王星の仲間、2014MU69に接近し、観測を行う予定である。冥王星よりも小さな天体の素顔も、われわれの予想を超えているのかもしれない。(国立天文台副台長・渡部潤一)

AERA 2016年8月15日号