専門の葬儀社は地域密着型の零細企業が多く、その数は全国で約6千社といわれている。積極的に宣伝活動しているところは少なく、ホームページを持っているところも少数派。業界全体として“情報開示”が遅れていた印象は否めず、葬儀費用などの透明性が問題だった。葬儀社側のサイトへの情報掲載は無料だ。加藤勉取締役はこう話す。

「業界横断型の情報サイトはこれまでありませんでした。葬儀業界は他に比べてIT化が遅れていた。直葬など低価格化が進んでいますが、料金だけでなく自分の価値観に合った葬儀をしてほしいという思いから立ち上げました。年内に全国2千社の参加を目標にしています」

 葬儀ガイドと同時にスタートしたのがスマホ・タブレット用のアプリ「葬ロング」。これは葬祭ディレクターのためのプロ専用業務支援アプリだ。自分が担当した葬儀を写真に撮り、スマホなどでクラウド上に保存する。ユーザーである葬祭ディレクターはそれらの情報を共有し、顧客に葬儀内容を提案するときに「こんなふうに葬儀ができます」と実例を示しながら説明することができる。

 葬ロングの情報は葬儀ガイドにも転送できるが、喪主の中には誰の目にも触れる情報サイトには掲載してほしくないと考える人もいる。その場合は、「葬ロング」だけに掲載をとどめる。

 このほか、同社は火葬場の空き状況などをチェックできる「斎場・葬儀場ガイド」の運営も開始している。(ジャーナリスト・横山渉)

【葬儀ビジネス05】
粉末にして海洋散骨:号鐘を鳴らして一礼し黙祷 散骨場所とアルバムを送付

 海に遺灰をまく海洋散骨を選ぶ人が増えている。散骨は遺骨を墓に納めず、灰にして自然に返すこと。7月下旬、全国19カ所で散骨事業を展開している琉宮海葬の散骨現場に立ち会った。

 この日、神奈川県の平塚新港に係留されていたプレジャーボートに乗船すると、甲斐浩司社長がすでに準備を始めていた。

 この日の遺骨は故人11人分。甲斐社長は11個の小さな竹かごに花びらを入れていく。この花びらと日本酒小瓶1本とミネラルウォーターのペットボトル1本がワンセット。これらを洋上で遺骨と一緒にまく。準備が終わり、船は海岸から離れた。

 日本海洋散骨協会では散骨する場所は、海岸から3キロ以上離れた沖合を目安としている。船長がその日の散骨場所を決める。天候や海況はもちろん、周囲に釣り船などがいないことを確認しなければならない。

 出港後、20分程度でこの日の散骨ポイントに到着した。甲斐社長は鐘(号鐘)を鳴らして、散骨開始を宣言する。合掌はせず、一礼して黙祷する。宗教色をなくすためだ。散骨の様子はデジカメで撮影。後日、散骨証明書と一緒に依頼者にアルバムを発送する。グーグルマップで調べた散骨場所も連絡する。

 遺骨の入った袋は海に沈みながら溶け、白いパウダーがあたりに一瞬広がる。遺骨は骨とわからないように粉末にされていた(粉骨作業の様子は22ページ参照)。甲斐社長によれば、依頼は年々増加。7月は50件以上散骨したという。
「海ならどこでもいいだろうというルール無視の業者もいる。供養の本質をあらためて考える必要がある」(甲斐社長)

 かつては「海が好き」という趣味的な理由が多かったが、今は必ずしもそうではないという。

「そうした美談は少数派。お墓がない、墓守がいないという現実的な理由が増えている」(同)

(ジャーナリスト・横山渉)

AERA 2016年8月15日号

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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