中学生で全国チャンピオンになったものの、高校生になった昨年の世界選手権は出場がかなわなかった。2月の遠征でバスから降りる際に転倒。足首を捻挫したのだ。不調が続き、ベストより7秒も遅いタイムで泳ぐレースもあったが、五輪イヤーを見定めたように巻き返してきた。滋さんからバトンを受けて、中学校時代から長谷川を指導する飯塚正雄コーチは言う。

「成長できた最大の要因は、性格です。彼女はほかの選手よりも努力のアベレージが断然高い。1年以上自己ベストが出ませんでしたが、心配していなかった」

●ルーティンをこなせる

 競泳の練習は過酷だ。選手は、水のなかで涙を流すこともある。2時間、3時間と泳ぎ込むなかで、後半になるとタイムを落とす選手もいるが、長谷川は食らいついてくるという。

「やると決めたら、やるのが当たり前なんでしょうね。練習ノートもほかの子はなかなか長続きしませんが、淡々とやり続ける。ルーティンをきちんとこなす生真面目さがある」

 レースのあった夜も教科書を広げるという長谷川。本人は、

「水泳も、勉強も、不器用だから、他の人よりいっぱいやらないとダメなんです」

 まっすぐ育ち、今のところ反抗期もない。父はもちろん、同じく水泳コーチだった母かおりさん(39)とも仲がいい「親ラブ族」なのだ。悩みは何でも両親にササッと相談。小さなレースでも緊張してあくびが止まらなかったが、両親の「酸素不足になってるからじゃない? 深呼吸して気を紛らわせれば?」というアドバイスで解消した。

「涼香」という名前は、競馬好きな父が、名馬サイレンススズカと名スイマー千葉すずにちなんで付けた。両親の愛に支えられて、寝ながら見るはずだった夢の舞台に立つ。(ライター・島沢優子)

AERA 2016年8月8日号