ヘリマネ政策とは何か。一般的な考え方を単純化すれば、「中央銀行がどんどんお札を刷り、それを元手に政府が国民にお金を配る」というものだ。ヘリマネという言葉は、後にノーベル経済学賞を受けたフリードマンが1969年の論文で初めて使ったと言われる。今の日本で実施するなら、日銀が買った国債を、返済期限がなく利子もつかない「無利子永久債」という「永遠に返す必要のない借金」に変換したうえで、政府が財政出動する手法などが取りざたされている。

●「高橋財政」で脱デフレ

 日銀が異次元緩和に伴って民間金融機関から買い入れている国債は、経済が本格的な回復軌道に乗った段階で保有量を徐々に減らすので、市場に出回るお金も減っていく。日銀はそう説明している。その通りなら、政府はいずれ借金を減らさざるを得なくなる可能性が高い。

「政府は大盤振る舞いしているけれど、財政はさらに苦しくなるのだから、いずれ増税するに違いない。もらったお金は将来への備えにとっておこう」

 安倍政権が繰り返し経済対策を打ち出して予算をばらまいても一向に消費が盛り上がらないのは、そう考える人が多いのが一因だ。経済学では「リカーディアン効果」と言われる。永遠に返す必要のない借金で用立てたお金をばらまくヘリマネなら、将来の増税は不要なので、理屈の上では「今の異次元緩和+財政出動」よりも景気を押し上げる効果は大きい。ただ、そんなにうまい話があるのだろうか。

 実は日本でもヘリマネ政策が実行されたことがある。1930年代の「高橋財政」だ。

 29年の米株式市場の暴落をきっかけとする世界恐慌のさなか、日本経済も深刻な景気悪化とデフレに陥った。首相や日銀総裁を歴任した重鎮、高橋是清が蔵相として再登板。日銀が直接国債を買い入れ(引き受け)、それを元手に政府が農村での公共事業などでお金をばらまいた。目論見どおり日本経済はデフレを脱却し、回復に向かった。

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