安倍政権の生命線と言える株価は、英国の国民投票で欧州連合(EU)離脱派が多数を占め、世界経済への懸念が広がった6月下旬に急落。一時は1ドル=99円台まで円高が進み、日経平均株価は1万5千円を割った。しかし、7月中旬から為替も株価も反転傾向に。ひとまず一時の混乱は脱したかに見える。

「金融政策にしても財政政策にしても、残された手は少ない。それだけでは市場の期待をつなぎとめることはできません。政府と日銀が『ヘリコプターマネー』という思い切った政策を導入するのではないかと市場関係者が連想し、結果として政権にとっては時間稼ぎになっているのが現状でしょう」

 ゴールドマン・サックス証券の馬場直彦チーフ・エコノミストはそう解説する。

●バーナンキ氏が提案?

 ヘリマネ論議がにわかに盛り上がったのは、12日に米連邦準備制度理事会(FRB)のベン・バーナンキ前議長が首相官邸を訪れ、安倍首相と面会したことがきっかけだ。会談の詳細は明らかになっていないが、バーナンキ氏は「ヘリコプター・ベン」の異名をとったヘリマネ論者だけに臆測を呼んだ。

 その2日後には米通信社ブルームバーグが、安倍首相の経済ブレーンである本田悦朗・前内閣官房参与が次のように語ったという記事を配信した。本田氏と4月に面会したバーナンキ氏は日本経済が再びデフレに戻るリスクを指摘し、選択肢としてヘリマネに言及。それを聞いた本田氏は安倍首相に「会ってほしい」と要請した──。

 菅義偉官房長官や黒田東彦日銀総裁はヘリマネの検討や実施を否定したが、国内外の市場関係者の間で「何か出てくるのでは」という期待感はくすぶり続け、株価を押し上げた。

 大手証券会社の幹部が7月中旬にアジアへ出張した際、訪問国の投資家たちは日本のヘリマネ政策の話題で持ちきりだった。この幹部に、複数の投資家がこう問いかけたという。

「ふつうに考えたら、ないとは思うよ。でも、参院選で大勝した安倍政権なら何でもできてしまうのでは?」

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