そして、両親に干渉されることのなくなった植松容疑者を狂気の奥底にまで引きずり込んだ原因はなんだったのか。

 今年2月に衆院議長公邸に手紙を持参したころと相前後して、特に異常な発言が目につくようになる。「障害者は周りの人を不幸にする。いないほうがいい」などと話し、園側が「それはナチスの考え方と同じだよ」と諭しても「考えは間違っていない」と言い張ったという。

 ここまで歪んだ考え方を持つようになった背景のひとつには、過酷な労働とバランスを欠く低賃金があったのかもしれない。「やまゆり園」は神奈川県立だが、運営しているのは「指定管理者」と呼ばれる社会福祉法人だ。小泉純一郎政権下で進んだ規制緩和政策の一環で、公の施設の管理を包括的に民間が代行できる制度が始まった。ある福祉施設関係者は言う。

「県立の施設なら、かつて職員は限りなく県職員に準ずる厚遇だったが、指定管理者制度になってからは労働条件も低く抑えられるようになった」

●経済合理性が生む差別

 実際、同園のアルバイト募集の時給は県の最低賃金レベルだし、植松容疑者が職員になってからの月給も約19万円。さらに、福祉を学んだ経験のない植松容疑者が、介護の延長程度の認識で、強度行動障害など重度の知的障害者の生活と24時間向き合う施設で働くとどういう現実に直面するのか。前出の福祉施設関係者は言う。

「東日本大震災である障害者施設に避難していた入所者たちが、この4月に5年ぶりに福島に戻ったとき、迎えに来た保護者は一人もいなかった。もちろん高齢者が多いのも理由ではありますが、避難している間も訪ねてきた保護者は5年間で3分の1だけ。誰からも褒められないし、利用者の成長も感じられないまま現状維持をずっと続けていく。職員にとっても、やるせない労働現場であることは間違いないんです」

 だからといって、腹いせに入所者を殺害する道理はまったくない。だが、事件後、ツイッターには植松容疑者の犯行や動機を擁護するような書き込みさえ、複数見られた。

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