「ガラスの天井」を突き破る以前に、より基本的な人権や自由を渇望している女性も、米国にはなお多い。(文中敬称略)

(ジャーナリスト・津山恵子)

■異例の両党大会、本選挙も波乱含み?
メディアは「クリントン優勢」 ネットではトランプ有利の声も

「共和党大会は、反トランプ派と支持派のデモが衝突して戦争状態になる。一方、民主党大会は無難に終わるだろう」

 民主・共和の両党大会を取材する大方のメディア関係者のそんな予想は、大きく外れた。

 テクノロジーの老舗専門誌「ワイヤード」のカメラマンは、オハイオ州クリーブランドで開かれた共和党大会に先立ち、防弾チョッキやガスマスクを用意したとソーシャルメディアに書き込んだ。しかし、会場外のデモは、数千人という予想に反して数百人規模で終わった。

 もっとも、会場の中は終始、異例ずくめだった。大会にはブッシュ元大統領親子ら党の重鎮が出席しないまま、政治経験ゼロで「アウトサイダー」のトランプ氏が大統領候補の指名を受けた。共和党支配層がトランプおろしに失敗し、敗北したことを印象づけた。

 一方の民主党大会も異例の展開を見せた。バーモント州選出のバーニー・サンダース上院議員を支持する同州代議員が投票表明を一時保留し、大きな「バーニー」コールが起きた。大会は綱渡りで進み、やっとクリントン氏を大統領候補に指名した。

 両大会ともに、党内の分裂を抱えたまま幕を閉じたが、11月の本選挙はどちらに勝ち目があるのか。

 米紙ニューヨーク・タイムズは、クリントン氏が本選挙に勝つ確率を69%、トランプ氏は31%と予想した。データジャーナリズムで定評があるサイト「538(ファイブサーティエイト)」は、クリントン氏52.6%、トランプ氏47.3%と、僅差ながら、やはりクリントン氏の優勢を予想している。

 しかし、中西部ミシガン州出身で、同地域をよく知る社会派ドキュメンタリー映画監督のマイケル・ムーア氏は、「トランプ氏が勝利する五つの訳」という記事をブログに書き込んだ。トランプ氏支持で中西部の「怒れる有権者」である白人男性は、変化を求めて従来の支配層ではない人物に投票する。過去は投票に参加せずデータのない層の投票率が予想以上に上昇し、トランプ氏の勝利につながるとの見方だ。

 民主党も共和党も、党内がまとまる見通しが立たないまま大会を終えただけに、本選挙でも波乱が続きそうだ。

AERA 2016年8月8日号