レッドステートとは、米中西部や南部など、歴史的に保守層の住民が圧倒的に多く、大統領選では党色を赤とする共和党が強い州を指す。今回旅した中西部は南北戦争(1861~65年)で、黒人解放を拒んで連邦を脱退こそしなかったものの、連邦に残った州政府に反対する一派が南部のアメリカ連合に加わった経緯がある。

 白人至上主義や人種差別主義的思想がいまだに根強く、銃の保有を合衆国憲法が定める権利として強く主張し続けている。キリスト教信仰もあつく、ダーウィンの進化論を否定し、神が世界を創造したと学校で教えている地域さえある。

 中間層が圧倒的に多く、人口の流動性があまりないレッドステートは、米国の「葛藤」と「不満」のたまり場だ。

 ニューヨークのような大都市であれば、国際派でリベラルな市民が多く、自由に発言できる。しかし、白人ではない記者にとってレッドステートは、言葉遣いにも気を配らなければならない地域だ。

●まずいバーガーか腐ったバーガーか

 マーブルと同じような意見だったのが、オハイオ州スプリングフィールド(人口約6万人)で会ったゲイリー・リチャードソン(63)。静かで歴史ある街だが、2011年、全米で「最も不幸な街」に選ばれた。ダウンタウンから少し出ると空き家が立ち並ぶ。以前あった工場などが立ち退き、若者の失業率は高い。そんな歴史を目の当たりにしてきたリチャードソンは、誰に投票するか、気持ちが定まっていない。

「投票の権利は行使する。でも、まずいバーガーか、腐ったバーガーのどちらかを選べと言われても……」

 トランプ人気の一方で、「古き良き時代」を知る人々は、トランプの政治家としての力量に疑問を抱いている。しかし、一方で、共和党を支えてきた土地柄、ヒラリー・クリントンに票を投じることにはかなりの抵抗がある。

 リチャードソンは、ベトナム戦争の退役軍人で、過去20年間はトラック運転手をしてきた。話し始めてすぐに、彼は手提げ袋から、年金の通知を取り出した。

「20年も働いたのに、月1200ドルの支給が530ドルになると言ってきた。生活のためにまだ働けると思って、マクドナルドの店員から守衛まで毎日職を探しているが、誰も雇ってくれない。この先、またいつ支給が減額になるかもわからない。この国では、引退すらできないのか。どうして、こんなことになっているのか」

 スプリングフィールド在住の50代の主婦クリスも同意する。

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