7月1日、バングラデシュの首都ダッカで高級住宅街のレストランが襲撃された。日本人7人を含む人質20人が死亡した。翌2日にISが犯行声明を出している (c)朝日新聞社
7月1日、バングラデシュの首都ダッカで高級住宅街のレストランが襲撃された。日本人7人を含む人質20人が死亡した。翌2日にISが犯行声明を出している (c)朝日新聞社
7月14日には仏ニースで、大型トラックが花火の見物客を多数はねた。射殺された実行犯はニース在住のチュニジア人の男。ISはこの件でも犯行声明を出している (c)朝日新聞社
7月14日には仏ニースで、大型トラックが花火の見物客を多数はねた。射殺された実行犯はニース在住のチュニジア人の男。ISはこの件でも犯行声明を出している (c)朝日新聞社

 赴任先や旅行先でいつ、テロや紛争に巻き込まれてもおかしくない時代だ。『戦場記者 「危険地取材」サバイバル秘話』(朝日新書)の著者が実践する方法とは。

 2005年のロンドン地下鉄・バス同時テロ以降、大規模テロのない英国だが、「01年以来、少なくとも70件のテロ計画があった」(マイケル・クラーク英国王立防衛安全保障研究所前所長)。大半は未然に防いだが、不発など、幸運に恵まれただけのケースが4件あるという。

 革命記念日の花火見物でにぎわう南仏のリゾート地ニースでトラックが暴走した事件では、子ども10人を含む84人が亡くなった。群衆の中で逃げ場がないまま巻き込まれた可能性が高い。

 記者は、中東特派員としてイラク、エジプト、リビア、シリア内戦のほか、13年1月のアルジェリア邦人人質事件などを現地取材してきた。経験上、海外では、平和的なデモに治安当局がいきなり放水銃や催涙弾を使用することも珍しくない。周囲に目を配り、万一のときに逃げ込める路地や建物を常に確認しておくことが、生き延びるカギになる。群衆の中に入りすぎないなどの自衛策も必要だ。

 バングラデシュの首都ダッカでは、レストランも標的になった。武装グループが計画的に襲撃した今回のようなケースでは、その場から逃げることは難しい。単独犯の場合、入り口の荷物検査で自爆することが多いので、できるだけ入り口から離れた死角に座る方が安全だ。死角なら、爆風の直撃を受けないうえ実行犯らの目にもつきにくい。窓際も避けた方がいい。爆風で粉々になったガラスは凶器になる。非常口も確認しておきたい。

「狙われやすい場所」もある。「イスラム国」(IS)などの過激派は、非イスラム教徒や外国人を攻撃対象にすることが多い。大使館や外国人の多い地区、有名な観光地などを狙う可能性がある。イスラム世界では酒類を提供する場所が一部のホテルやレストランなどに限られていることもある。こうした場所も対象になりやすい。金属探知機や武装警備員の配置などの治安対策を講じているかも確認したい。

●通信手段の確保は必須

 犯行の劇場効果が高まる「記念日」にも要注意だ。ダッカではラマダン(断食月)明け、仏ニースでは革命記念日が狙われた。米同時多発テロ事件の9月11日、英ロンドン地下鉄・バス同時テロの7月7日は毎年、当局も警戒を強めている。記念日の外出では、ふだんよりも周囲の状況に気をつけて動くべきだ。

 テロに巻き込まれないためには、情報収集も極めて重要。トルコでは、ISのほか、クルド系過激派のテロも相次ぐ。現地の政治状況や反政府組織の活動などの知識を、地元の知り合いや、内外のメディア報道などからつかみ、外務省が出している安全情報にも目を通しておく。通信手段の確保は必須。携帯のローミングサービスや現地携帯のSIMカードを使い、ネット情報には常にアクセスできるようにしておきたい。非常時の一報をスマホに送ってくれるメール登録なども役立つ。

 それでも、100%身を守れる保証はない。巻き込まれたら、どうすればいいのか。

 危機管理の専門家らは、成功の可能性が少しでもあれば逃げるべきだと指摘する。人質になってから無事解放される確率は1割程度というデータもある。多くの国で治安当局は、人命より事件解決を重視する。万一、人質になった場合には、当局の強行突入がありうることを想定して、巻き添えから逃れる方策がないかを考えよう。あとは、運を天に任せるしかない。(朝日新聞ヨーロッパ総局長・石合力)

AERA  2016年8月1日号