トルコのクーデターは、エルドアン大統領が、スマートフォンのビデオ電話を通じてテレビに生出演したことで、潮目が変わった。熱心なイスラム教徒たちが、反クーデターの先頭に立った(写真:gettyimages)
トルコのクーデターは、エルドアン大統領が、スマートフォンのビデオ電話を通じてテレビに生出演したことで、潮目が変わった。熱心なイスラム教徒たちが、反クーデターの先頭に立った(写真:gettyimages)

「イスラム国」が勢力を広げるシリアと長い国境を接するトルコは、ISテロ防止の「防波堤」ともいえる存在。

この国で、軍がクーデターを起こした。未遂に終わったが、一転、政権による反対派の大粛清が始まり、混乱は続く。

「クーデターを阻止するために街頭に出よ」

 休暇中だったトルコのエルドアン大統領は、軍がクーデターを起こしたという速報を受けて地元のテレビ局に連絡。携帯電話からこう呼びかけた。

 大統領の訴えの後、トルコの国旗を持った民衆が、町に出た戦車や軍車両を取り囲み、こぶしを振り上げて抗議した。戦車に登って兵士を説得しようとする男性の姿も、テレビでライブ中継された。イスタンブールでも軍の反乱から4時間ほどで、治安部隊が反乱兵士を連行する様子がテレビに映し出された。

●市民と民主主義の勝利

 一時は、反乱軍が空港や放送局、ボスポラス海峡にかかる橋を押さえ、1960年、71年、80年と過去に3度あった軍クーデターの再来かと思われた。しかし、今回、関わったのは軍の一部。政府を支持する民衆が動いたことで、あっという間に抑え込まれてしまった。

 エルドアン氏が率いるイスラム系「公正発展党(AKP)」は、選挙で50%の票を獲得している。市民の力の勝利であり、民主主義の勝利だとして、喝采の声が上がった。雰囲気が変わったのは、その直後。政府が4日間で5万人を逮捕または公職から追放する大粛清を始めたからだ。

 軍の将兵6千人の逮捕、警官9千人の解雇、判事など司法関係者3千人の解任、教師・教育関係者1万5千人の解雇、大学の教授1500人の解任と、情報機関関係職員9千人の解任……。軍関係以外は、エルドアン氏が「政敵」とする、イスラム的価値観を標榜する市民組織「ギュレン運動」の関係者と見られる。米国亡命中のイスラム教指導者ギュレン師が率いる運動で、エルドアン氏は彼を「クーデターの黒幕」と非難していた。ギュレン師は関与を否定し、欧米メディアには「(エルドアン氏の)自作自演だ」と語った。

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