映画「めぐりあう日」では、主人公と息子との心のやりとりも描かれる。7月30日から東京・岩波ホールほかで全国順次公開 (c)2015 -GLORIA FILMS- PICTANOVO
映画「めぐりあう日」では、主人公と息子との心のやりとりも描かれる。7月30日から東京・岩波ホールほかで全国順次公開 (c)2015 -GLORIA FILMS- PICTANOVO

 生みの親と暮らせない子をわが子として育てる養子縁組。母を探す養子と、過去を隠す母親の心情を描く映画が公開される。この映画を撮った監督自身も、養子だ。

 自分がどこから来たかを知ることは、どこへ向かうかを見定める道標となる。映画「めぐりあう日」は、母親になった30歳の養子の女性が、自身のルーツを探し求める物語だ。

 夫と8歳の息子とパリに住む理学療法士のエリザは生みの親を知らない。養父母の了解を得て調査機関に実母の所在を尋ねるが、匿名で出産した女性を守るフランスの法律が壁となってたどり着けない。エリザは息子を連れて出生地に転居し、自ら調査に乗り出すが──。

●突き動かすのは「怒り」

 エリザは息子や夫との関係に葛藤も抱えている。母親探しの過程ではいらだち、混乱し、落胆する。自分の歴史に「空白」があるために、エリザが抱く喪失感がひりひりと伝わってくる。

 ウニー・ルコント監督自身、生みの親を知らない。韓国の孤児院で育ち、9歳でフランス人家庭の養子となった。初監督作の「冬の小鳥」(09年)は、韓国人の孤児の少女が養子としてフランスに渡るまでを描く半自伝的な作品だ。血縁や戸籍を重視する韓国では未婚の母への偏見が強く、朝鮮戦争後の混乱期以降、16万人を超える国際養子が海を渡っている。

 今作にも監督自身の体験が投影されているが、作品をつくるにあたっては、フランスの縁組事業者や養親、養子など、数多くの関係者に話を聞いたという。監督は言う。

「人によってその時期はさまざまで、強弱もありますが、養子が人生で抱く怒りの感情については誰もが言及していました」

 そんなリサーチの集積が作品にリアリティーを加えている。生みの母とエリザの対面シーン。テレビ番組などで見る「感動の再会」ではなく、エリザが最初に示したのは「怒り」だった。

「彼女は母親が誰かだけではなく、なぜ自分は捨てられなければならなかったのか、背後にどんな物語があったのかを知りたかった。最後まで探求を突き進める原動力となったのが怒りです」

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