隠し味にトマトジュース1缶を加え煮込んだら、ガラムマサラで仕上げ、カレーも自分もひと晩寝る。翌朝はタイ米の炊ける匂いで目が覚める。

「朝起きると、味のなじんだカレーが出来上がっていて。無上の喜びを感じます」

 と男性。しかしこうしたカレーが作れるのは2、3カ月に1回ほど。このため他の週末用に老舗カレー店「アジャンタ」や「にしきや」の本格カレーのレトルトを常備している。

「実は、家ではカレーは手で食べているんですよ。やっぱり味が違います」

 取材の帰り際、こっそりそう教えてくれた男性は、晴れ晴れとした表情で午後の仕事に戻っていった。どうやらカレーには人を元気にする作用があるようだ。

●次の大ブレークは?

 明治期にイギリスから伝わり、いまや日本人の国民食となっているカレーは、数々の流行を巻き起こしてもきた。カレー総合研究所所長の井上岳久さん(47)が次の大ブレークと目しているのは「スリランカカレー」。

「2013年頃から大阪で流行し、西日本に広がり、昨年後半から東京でも開店ラッシュが続いています」

 インドカレーとの違いは「だし」を使うことと、ワンプレートにサラダや副菜ものせて一緒に味わう点だ。家庭で香辛料をそろえ本場の味を再現するのは難しいが、日本流にアレンジしたワンプレートのスリランカスタイルのカレーは今後家庭にも広がると、井上さんは見ている。

 昨年食べたカレーは812食。スパイス料理研究家で「カレー大學」の講師も務める一条もんこさん(38)が、最近家で作るのも、もっぱらスリランカスタイルのカレーだという。その理由を次のように語る。

「なんといってもヘルシー。野菜がいっぱいとれるので、ご飯を食べすぎずにすみます。冷蔵庫にあるものを適当に付け合わせればいいので手軽で、残り物を一掃できる点もいいです」

●ルウの説明に忠実に

 カレー作りのポイントは、かつお節を1人当たりひとつまみ入れてうまみをプラス。さらにココナツミルクとトマトを加えるとスリランカ風の味に近づく。

子育て中の友だちにスリランカカレーを教えたら、野菜嫌いの子どもが野菜を食べたと喜ばれました」(一条さん)

 各家庭で独自の工夫がなされている家カレーだが、「余計なことをせず、あえてルウの説明通りに忠実に作る」という人も。2歳の子を持つ、IT企業に勤める女性(37)は子どものころカレーをおいしいと思ったことがなかった。母は圧力鍋を使い、ひと工夫を加えて作っていた。一人暮らしを始めたとき、とにかくルウの箱の説明通りに作ってみて驚いた。

「カレーっておいしいんだ!って(笑)。商品開発者の苦労の結晶をいたずらにいじってはいけない。本気で作った人のことを信じることは大事だと思いました」

 原点回帰派からアレンジ派まで、家カレーの裾野は広い。この多様性こそがカレーなのだ。(編集部・石田かおる)

AERA 2016年7月25日号