今から5年前、実家の洋菓子メーカー「きのとや」で働いていた長沼真太郎さんは、シンガポールでの北海道物産展に出店した。そこではチーズタルトを箱に詰めた状態で、冷蔵ショーケースに並べて売っていた。しかし思わぬ事態が発生。箱の発注数を少なく間違え、足りなくなってしまったのだ。そこで急遽、チーズタルトを焼きたてのまま、鉄板ごと店先に並べた。すると、甘いにおいに引き寄せられるように客が押しかけ、1日の売り上げが箱入りの10倍以上になる最高1千個に。ここに成功のヒントをつかんだ長沼さんは、BAKE CHEESE TARTを開店。味はもちろんのこと、店舗デザインにもこだわり、15年度は2千万個のチーズタルトを売った。

■多機能位置アプリ → 写真共有に焦点
<インスタグラム>

 インスタグラムの共同創業者、ケビン・シストロム、マイク・クリーガー両氏はもともと、「Burbn(バーボン)」というアプリを開発していた。これは、ユーザーが、自分の居場所を写真などとともに投稿して他人とシェアできる、いわば「位置情報アプリ」。さまざまな機能も充実させて試験的に始めたところ、一部のユーザーには好評を得たが、多くの機能は思うように活用されなかった。失敗かに思えたBurbn……。

 しかし、シストロム氏とクリーガー氏は、多くのユーザーがBurbnを、みんなで写真を共有するために使っているということに気づく。そこで、思い切って方向を転換。写真共有機能にフォーカスしたアプリに作り替えることにした。写真を美しく編集できるなど、写真を共有するための機能を徹底的に追求した結果、誕生したのがインスタグラム。2010年にApp Storeに登場して以来、ユーザー数は右肩上がり。アンドロイド端末でも使えるようになり、今では世界で5億人以上が使う超人気アプリになった。

■後発の不得意技術 → 得意素材で勝負
<パナソニック「アラウーノ」>

 便器は陶器で作るもの。そんな業界の常識をくつがえし、パナソニックが2006年に発売したのは、有機ガラス系の樹脂でできたトイレ「アラウーノ」。誕生の背景には、陶器製便器での苦い経験がある。

 同社が陶器製の便器を出し始めたのは1973年と、トイレメーカーとしては後発組。このため、陶器製品の歩留まりが安定しないことなどもあって、採算が厳しい状態が続いた。一度子会社化した陶器製造会社を清算するまでに追い込まれ、もう事業撤退か……という瀬戸際まで来たとき、製造システムを研究する部門のトップが、こう提案した。

「陶器は諦めて、我々が得意の樹脂でつくろう」

 振り返ればパナソニックは、松下幸之助が二股ソケットを発売した96年前からずっと、樹脂技術で成長してきた会社だった。そこで、固定観念を取っ払い、自社が強みを持つまったく新しい製法を採ることにした。すると、汚れがつきにくい特徴なども生まれ、これまでに累計100万台を売り上げるヒット商品になっている。(ライター・柳澤明郁)

AERA 2016年7月18日号