■売れず草むしり → 九州ソウルフード


<ハウス食品「うまかっちゃん」>

 九州出身者のソウルフードとして根付いている「うまかっちゃん」。過去をさかのぼると、「しょうゆラーメンの失敗」と「草むしりの日々」の苦い記憶に行き着く。

 1978年。ハウス食品福岡工場は危機に瀕していた。当時、主力商品として売り出していたしょうゆ味のラーメンが、九州地方ではまったく売れなかったのだ。生産は不安定になり、工場の従業員は、生産計画のない日は草むしりをして過ごすほかなかった。

 そんな中、工場長はあることに気づく。「社員も食堂で自社のラーメンを食べていない!」。調べてみると、九州出身の社員はとんこつ味を好むため、しょうゆ味の自社ラーメンを食べていなかったのだ。そこで一念発起。同社として初めて、とんこつ味のラーメンの開発に乗り出した。しょうゆラーメンの失敗を繰り返すまいと、今回は九州の人々の意見に耳を傾け、地元志向を徹底的に追究。そして誕生した「うまかっちゃん」は、79年に発売されるとすぐに人気となり、発売5カ月後には九州でトップシェアを占める商品になった。

■機械の不具合 → 多層スイーツ
<雪印メグミルク「重ねドルチェ」>

 通常、ゼリーなどのカップデザートを作る工場では、中身の液体1種類につき約1秒の速さで容器に充填していく。その速さだと、先に入れた液と次の液が混ざり合い、層を作ることはない。その課題を克服して生まれたのが、異なる味が層になったデザート「重ねドルチェ」だ。

 雪印乳業(現雪印メグミルク)技術担当の久保内宏晶さんは、研究所内の簡易テスト機で層を作ることに成功し、2004年に工場での実機テストに臨んだ。ところが、実機では何度試しても層ができず、失敗作の山に落胆する毎日。しかしある夜、その日の試作品を見直していると、一つだけ、層になっていることに気づく。詳しく調べると、たまたま機械を急停止させたときのものだった。機械が不具合を起こし、液の注ぎ方が微妙に変化して、層を作り出したのだ。

 この発見をヒントに、層を作る独自の技術を考案し、07年に特許を取得。10年、味わいも見た目もまったく新しいデザート、「重ねドルチェ」が売り出された。

■甘口で不評の清酒 → コク出す料理
<大木代吉本店「こんにちは料理酒」>

 1865年に創業した福島県の老舗酒蔵、大木代吉本店。現在、生産量の半分を占める「こんにちは料理酒」の誕生のきっかけは、甘口の日本酒の失敗だった。

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