キキシリーズの「キキ チェア」 (c)Artek
キキシリーズの「キキ チェア」 (c)Artek

 あなたが愛用してやまないあの商品、サッと生まれたと思いますか。実は「マイナスからの大逆転」というドラマも少なくないんです。

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 失敗が失敗のまま終わるとは、限らない。失敗から得た教訓は将来に役立つというのももちろんだが、「けがの功名」ということだってある。

 職場や学校で大活躍の文房具「ポスト・イット」。これだって、さかのぼれば「失敗」がもとになっている。1968年、3Mの研究員が接着力の強い接着剤を作ろうとしたときに、「よくつくが、簡単にはがれる」接着剤ができてしまったのだ。その時点では失敗に思われたが、後に、「のりの付いたしおり」のアイデアと結びついたことで、みごとにポスト・イットが誕生した。

 今、失敗のまっただ中にいる人も、未来の失敗を恐れている人も、ここに紹介するエピソードを読んで、「ま、いっか。失敗しても」と気を楽に持ってほしい。失敗が、幸運の女神の前髪、ということもあり得るのだ。

 けがの功名を地で行った人気商品8点を紹介する。

■不良在庫の山 → オシャレ北欧家具
<「キキ」シリーズ>

 シンプルで洗練されたデザインが印象的な北欧家具。誕生のきっかけは、ある業者が大量の在庫を抱えてしまったことだった。

 1950年代末のフィンランド。断面が楕円形の金属チューブが工場で在庫の山をつくっていた。「この在庫を利用できるものをデザインしてほしい」。そんなムチャブリを受けたのは、フィンランドデザイン界の巨匠、イルマリ・タピオヴァーラ。くしくもこの頃、彼の家具デザインは、若いころ得意にしていた有機的カーブ主体のものから、幾何学的な構造をベースにしたものへと変化を遂げている最中だった。彼は、余りもの再生というお題を見事やってのけ、「キキ」シリーズを作り上げた。

 一連のシリーズはすぐに、フィンランドのモダニストの建築家たちから称賛を浴びた。そしてシリーズの一つ「キキ チェア」(現在は生産終了)は60年のミラノトリエンナーレで金賞を受賞。現在は、フィンランドの老舗インテリアメーカー、アルテックによりソファやベンチ、サイドテーブルなどが展開されている。

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