長さ3センチほどのカプセルに入った内視鏡をのみ込むだけで、体外に排出されるまでに大腸内を撮影してくれる「大腸カプセル内視鏡検査」はこうした心配もなく、人間ドックに採用するところもある。

 住民検診で採用されているのは、便潜血検査だ。

 便潜血の有無を2日間調べて陰性なら、ほぼ大腸がんの心配がないと言えるという。ここで大腸がんのリスクがある人を絞り込み、大腸内視鏡などを用いた精密検査に進む。

 ただし、痔などで便潜血に陽性反応が出る人もいる。

 自治医科大学病院の山本博徳医師は「そうした人は、がん検診としての便潜血検査は向いていないので、医師に相談し、5年に1回の大腸内視鏡など違う方法を考えるべきだ」と話す。

 次に、がんによる死亡数がもっとも多い肺がん。住民検診では、問診と胸部X線撮影が40歳以上を対象に年1回受けられる。喫煙者などリスクが高いと考えられる人は、痰(たん)の中に含まれる細胞を調べる「喀痰細胞診」も併せて行う。

 一方、人間ドックでは、CTを使うところも増えた。「費用はかかるが、X線より精密な画像で調べられるため、早期発見に高い効果が期待できる」(循環器内科医)という。

●マンモにも限界はある

 40歳以上の女性が対象の乳がんの住民検診の指針も4月、変更された。医師による視触診のみの有効性が否定され、マンモグラフィーとの併用か、マンモグラフィー単独になった。

 乳房にX線を透過させ、がんの有無を調べるマンモグラフィーは、すっかりメジャーになった感があるが、注意点もある。

「日本を含むアジア人女性の乳房には、脂肪が少なく、乳腺組織の密度が高い『デンスブレスト』が多く見られ、20~30代の若年層は90%以上です。デンスブレストの人がマンモグラフィーを撮っても、乳腺組織全体が白く写るため、同じく白く写るがんの識別が困難で、見逃される可能性が高い」と昭和大学病院の中村清吾医師は指摘する。

 マンモグラフィーを使えばデンスブレストかどうかはわかるため、「検診を受ける人にその情報を知らせて注意喚起すべきだ」という意見も広がっている。

 一方の超音波検査は、小さい腫瘤を見つけやすいが、技師の技量に左右される面もあり、マンモグラフィーと併用する選択肢もある。

 乳がんは、自分で異常に気付ける数少ないがんだ。

「生理後4日から1週間くらいのいちばん軟らかい時期に、自分の両胸を触る習慣をつけることをお勧めします」(中村医師)

●20代も子宮頸がん警戒

 子宮頸がんは、ほかの四つより若い20歳以上の女性が住民検診の対象になる。性交渉で感染するヒトパピローマウイルス(HPV)が原因と考えられ、患者数が20~30代で急増しているからだ。

 しかし、13年の国民生活基礎調査によると、20代で子宮頸がん検診を受けた人は22.2%に過ぎない。

 欧米やアジア諸国では子宮頸がんワクチンが導入され、子宮頸がんの患者は減っているというが、日本では深刻な健康被害を訴える人が出て、厚労省が接種の推奨を中止した。順天堂大学順天堂医院の竹田省医師は「せめて子宮頸がん検診は受けてほしいのですが……」と呼びかける。

 住民検診でも人間ドックでも、検診には頸部細胞診が広く導入されている。受診に抵抗がある人に配慮して、自分で細胞を採取できる検査キットもあるが、医師による細胞診のほうが精度は上がる。

 人間ドックにはHPV検査もあり、子宮頸がんになるリスクを調べることもできる。

 ただし、こうしたがん検診はあくまで健康な人が対象。すでに異常や自覚症状がある場合は検診ではなく、医療機関を受診すべきだ。

「例えば、慢性的に胃痛や胸やけがあるとか、下痢や便秘を繰り返すとか、乳房にしこりがあるなどといった場合は、病院へ行ってください」(前出の富山所長)

 がん検診は、受診した時点でがんになっている可能性を判定するものだ。どんな検診でも100%、正しく診断できるとは言えない。「一度受けたから安心」「前に陰性だったから大丈夫」ではなく、定期的に検診を受けることが大切だ。(編集部・澤志保/サイエンスライター・粥川準二)

AERA 2016年7月11日号