日立製作所と住友商事グループは、尿を使って乳がんや大腸がんの患者を識別する技術を開発し、今年6月に発表した。健康な人、乳がん患者、大腸がん患者、各15人の尿中から糖や脂質など1300以上の代謝物を取り出して比較。患者かどうかで含有量が大きく異なる物質を200以上見つけ出した。さらにその中からがんと関連が深いと思われる約10種類を指標(バイオマーカー)として絞り込むことでがんの有無に加え、乳がん・大腸がんの種類の識別にも成功したという。
日立で開発に当たった基礎研究センタの坂入実チーフサイエンティストはこう話す。
「尿なら簡単に苦痛なく採取できる。検査による被曝もありません」
●簡易な実用化目指す
現段階では、どの程度の進行具合のがんから見つけられるのかなどはわかっていない。今後は臨床データの件数を増やし、精度の向上を図る。また、若い女性に多い乳がんと大腸がんから研究をスタートさせたが、特定できるがんの種類も増やしていきたいという。
「将来は、検査キットなど簡易な方法で実用化を進めていく方針です。受診者が自宅で採った尿を検査機関に送付するだけで正確に診断できる仕組みを確立し、がんの早期診断や早期治療につなげたい。がんを治療したあとの再発の早期発見にも使えるのでは、と考えています」(坂入さん)
(ライター・熊谷わこ)
※AERA 2016年7月11日号