●気分はお気楽準会員

 欧州に13年住んだ私が知る英国は、EUの記事が新聞の国際面に載る国であり、大市場の恵みをつまみ食いする「お気楽な準会員」。欧州統合の湯船にどっぷりつかることなく、いわば足湯の状態で参加していたというのが正直な印象なのだ。

 加盟国のEU内での重みを10段階で格付けすれば、別格はドイツとフランス。90年代初頭まで「統合の双発エンジン仏独」などと表現されたが、東西ドイツの統一やユーロ導入、アンゲラ・メルケル(61)の長期政権により、今は「独仏」の順で並べるのが普通だ。ドイツが10、フランスが9である。英国はイタリアと並んで8、7にはオランダ、ベルギー、スペインといった国々が続くだろう。

 英国の離脱で欧州統合の歩みから大国の一角が欠ける、との解釈は大仰に過ぎる。実際は独仏に次ぐ「8ランク」が一つ消えるということで、EUにすれば「面倒だが冷静を装えるレベル」の出来事といえる。

 英国では、離脱派の言説のいい加減さが知れ渡り、400万人超が国民投票のやり直しを求める署名を寄せた。有り体に言えば「やっちまった」のだ。

 2014年に独立を問う住民投票(反対55%、賛成45%で否決)をしたスコットランドのほか、北アイルランドやウェールズにも独立を探る動きがあるという。脱出ボートから浮輪ひとつで母船に戻る図である。

●英新首相を待つ茨の道

 英国は離脱通告から2年以内に、その後の交易条件などを交渉で決める。大市場へのアクセスを保ちつつ移民流入を抑えるのが理想だが、EUのトゥスク大統領(ポーランド)は「単一市場にアラカルトはない」とクギを刺す。ユンケル欧州委員長(ルクセンブルク)に至っては「英国とEUの離婚は円満ではない。もともと愛もなかった」とにべもない。

 キャメロン首相の後任を選ぶ保守党党首選挙は9月。誰になっても、周縁の独立機運を鎮めながら、EUとの条件闘争を乗り切る手腕が求められる。

 投票後に次期首相として有力視されたのは、離脱派を率いた前ロンドン市長の下院議員、ボリス・ジョンソン(52)だ。

 私がボリスと会ったのは、92年に赴任したブリュッセルである。彼はデイリー・テレグラフ紙の特派員。20代ながら同業の間ではすでに有名人だった。EU首脳会議の記者会見では真っ先に手を挙げ、芝居じみた低音で名乗ると、毒とユーモアに満ちた遠慮ない質問を発する。挙動にはなにがしかの笑いがつきものだった。

 ただし「反EU」というほどではなかったから、首相への早道として逆張りしたのだろう。彼はその賭けに勝った。勝ったのに、党首選には出ないという。党内基盤の弱さゆえか、茨の道におじけづいたのか。

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