●出自や環境に関係なく

 ふてくされて、夜中に家の近くでガードレールを蹴って歩いているところを警察官に補導された。連絡を受けた校長先生に、初めて事情を打ち明けた。

 しばらくすると、塾に行かせてもらえることになった。授業料の原資となったのはあの父の売れない絵。校長先生が親に話をして、絵を100万円で買ってくれたのだ。

「当初はどうして行けたのかわからず、後になって絵の話を聞いた。校長先生が運命を切り開いてくれたんです」

 東大に進学し、地方出身の同級生や、家庭教師で出会った子どもたちと接するうちに、自分のような金銭的理由ばかりではなく、住んでいる環境などが、教育格差につながることに気づいた。家の近くに学習塾がない子どもも少なくない。

「出自や環境に関係なく、誰でも学べる仕組みを作りたい」と思ったのが「マナボ」を立ち上げたきっかけだ。今では累計約5万人の小・中・高校生が利用する。かつて学ぶチャンスを与えてくれた「校長先生」のような役割を、新しいテクノロジーを使って今度は自分が担っていきたいと思っている。(編集部・山口亜祐子)