「すべての子どもがブラックな部分を言えるわけじゃない」

 そう話すのは、首都圏に住むパート勤務の40代の女性だ。高校時代、バスケットの強豪校だったが、顧問のセクハラに悩まされた。

「夜中に寮で寝ていると、布団にもぐりこんでくる。怖くてたまらなかったけど、ただ寝ているだけだから我慢した。周囲にも言えなかった」

●6割が体罰容認派

 ある日、体育教官室から出てきた女子マネジャーの体からは、顧問がつけるオーデコロンの匂いがした。この顧問の問題行動が広まり、一人の保護者が学校に通告してくれた。数カ月後に顧問は辞めさせられた。

「いまだに部活顧問からのセクハラやパワハラの報道がある。止められるかどうか、親の責任は重大です」

 だが、親自身が顧問の暴走を後押しすることもある。前出のケースの「6割以上の親がシンパ」と聞いて思い出すのは、13年3月末に読売新聞が行った世論調査だ。学校での「体罰」を認めるか否かについて「認めてよい」「場合によっては認めてもよい」の合計は59%と、約6割が体罰容認派だった。小中高校生の子を持つ親に限定すると62%と6割を超えている。暴力的指導をよしとする親たちの感覚が、成長とは程遠い過酷な練習を子どもに強いる“ブラック部活”を後押ししているのではないか。

 関東の中高一貫校で野球部の顧問をしている男性教師は桜宮高の事件以降、叩く指導を一切やめ、練習時間も短くした。ところが、入学してくる生徒の父親から「勝つためなら、うちの子には遠慮しないで」と頭を下げられることが度々あった。

「でも、そういう人ほど、自分の子が思うように伸びないと、先生の指導が厳しすぎるなどと文句を言う」

 過熱する部活動を問題視した文部科学省は、中学で週2日以上、高校で週1日以上を目安にした休養日を設定し、教員の負担も軽減するよう各校に求めることを決めた。

 関東の公立中学校でソフトテニス部顧問を務める男性教員は昨年、一足先に休みなしだった活動を週末1日オフにした。ところが、親たちからは不評。

「もっとやって。週末に部活がないと街で遊んで(素行が)悪くなる」

 と大反対された。

「僕も生徒もクタクタ。休養が必要と考えたのですが、手抜き教師と言われました」

 と男性教員は落ち込む。

 部活の歴史に詳しい早稲田大学スポーツ科学学術院の中澤篤史准教授がその背景を説明する。

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